研究課題
希薄磁性合金における磁気的な近藤効果が確立されてから,格子系の近藤効果とRKKY相互作用の競合による強相関電子系の形成は物性物理の主要なテーマとして研究されてきた。われわれは,4f2配位のPrが非磁性基底二重項をとる立方晶PrIr2Zn20において電気四極子に起因する非フェルミ液体(NFL)的挙動を見出し,局在した四極子が二つの等価な伝導バンドによって過剰遮蔽される「2チャンネル近藤効果」による格子系形成の可能性を指摘したが,実験的な確証には至っていない。そこで今年度は,Prイオンを希薄に含む系に着目し,純良単結晶を用いた極低温0.1 Kまで電気抵抗率,比熱,磁化を測定し,単サイトの効果である希薄系の2チャンネル近藤効果について調べた。比熱を温度で割ったC/Tの値は温度降下と共に-logTの温度依存性を示し,同じ温度領域で電気抵抗率はT^0.5に依存することを見出した。また,Pr組成ごとに求めた特性温度を用いると,比熱と電気抵抗率が一つの曲線にスケールすることを見出した。これは,非フェルミ液体的挙動がPrの4f2電子に起因していることを示唆している。また,これらの温度依存性は単サイトの四極子近藤効果の理論モデルによる予測と符合する。さらに,同型構造をとる4f3配位のNd系の単結晶を作製し,磁化と比熱の測定から反強磁性秩序を観測した。転移温度以上の比較的広い温度範囲において,Pr系とよく似た異常な温度変化を見出した。秩序構造について明らかにするために,粉末中性子回折実験を行った。転移温度以下で磁気反射を観測し,その強度の温度依存性から求めた転移温度は,比熱や電気抵抗率での異常が見られる温度と一致した。さらに,粉末試料を用いた核磁気共鳴測定により磁気秩序状態について調べた。また,Ndが希薄な系の単結晶を作製し,0.1 Kまで磁気転移が起こらないことを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
希薄系の2チャンネル近藤効果に関する現在までの研究は順調に進展している。進捗状況については,以下の通りである。(1) Pr希薄系Y(Pr)Ir2Zn20の純良な単結晶の育成に成功し,3He-4He希釈冷凍機を用いて電気抵抗率と比熱を測定した。電気抵抗率の測定では,今回導入したACレジスタンスブリッジを用いて高精度なデータを得ることができ,その微小な温度依存性を捉えることができた。Pr濃度によらない比熱と電気抵抗率の非フェルミ液体(NFL)的挙動を抽出し,単サイトの2チ ャンネル近藤効果の理論モデルによる計算と符合することを明らかにした。(2) Zn系よりもc-f混成が強いAl系のPr希薄系La(Pr)Ti2Al20の単結晶を作製した。低温で比熱と電気抵抗率を測定し,Zn系と類似のNFL的挙動を観測した。NFLの特性温度はZn系よりも高いことから,c-f混成により2チャンネル近藤効果が増強されたと考えられる。(3) Pr希薄系Y(Pr)Ir2Zn20の磁化率を測定し,磁場2 TでNFL的挙動を観測した。四極子に付随した磁気双極子の揺らぎを捉えていると考えられ,中性子散乱とNMR/NQRの微視的な磁気プローブによる観測の指針を得た。(4) 4f3配位のNdイオンを含む系の単結晶を育成し,磁化と比熱の測定から,基底Gamma6二重項を同定した。反強磁性転移温度以上で,比熱と電気抵抗率の異常な温度依存性を観測し,磁気的な2チャンネル近藤効果の可能性を指摘した。
希薄系の2チャンネル近藤効果に関する実験的な確証を得ることを目指して,今後は下記の計画に沿って研究を推進する。(1) 非磁性基底二重項をとるPr希薄系Y(Pr)Ir2Zn20の単結晶を用いて,四極子感受率に対応するGamma3対称性の弾性定数を測定し,理論から予測されている-logTの温度依存性が発現するか調べる。さらに,弾性定数と磁化率の測定をPr組成の異なる単結晶を用いて行い,4f2電子の四極子が非フェルミ液体的挙動にどのように関与しているのか明らかにする。(2) Pr希薄系の単結晶を用いて熱膨張と磁歪を測定する。結晶場とゼーマン効果を考慮した計算を行い,単サイトの四極子近藤効果による寄与を抽出し,その温度依存性を実験的に捉える。(3) 同型構造の4f3配位をとるNdT2Zn20 (T=Co, Rh, Ir)の粉末中性子回折実験をフランス・レオンブリルアン研究所にて行い,磁気回折ピークの強度から磁気構造を同定する。また,熱膨張と磁歪を測定し,格子収縮の温度・磁場変化からNdの価数を評価するとともに,NFL的挙動の有無について調べる。(4) Nd希薄系の単結晶を作製し,電気抵抗率や比熱の温度依存性を明らかにする。Pr希薄系との比較を通して,2チャンネル近藤効果に共通する特徴を捉える。(5) Gamma3基底状態をとる新たなPr系立方晶化合物の探索を行う。候補物質である立方晶PrMgNi4ならびにその関連物質について結晶場スキームと基底状態を同定する。
すべて 2019 2018 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (17件) (うち国際共著 3件、 査読あり 17件) 学会発表 (47件) (うち国際学会 12件、 招待講演 3件) 備考 (1件)
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