研究課題
4f2配位のPrイオンが非磁性基底二重項をとる立方晶PrIr2Zn20では,電気四極子に起因する非フェルミ液体的挙動が観測され,局在した四極子が二つの等価な伝導バンドによって過剰遮蔽される「2チャンネル近藤格子」形成の可能性がある。前年度までに,Pr希薄系Y(Pr)Ir2Zn20の純良単結晶を用いた極低温0.1 Kまでの電気抵抗率と比熱,磁化率ならびに弾性定数が1 K以下の低温で非フェルミ液体的挙動を示し,単サイトの四極子近藤効果の理論モデルによる予測と符合することを明らかにした。今年度は,同型構造のPr希薄系La(Pr)Ti2Al20において,強四極子秩序と非フェルミ液体的挙動の相関を見出し,Prが希薄な領域の電気抵抗率と比熱の温度依存性がPr組成でよくスケールすることを見出した。また,La(Pr)V2Al20の1.2 K付近の比熱の山の磁場依存性とPr組成依存性から,非磁性二重項による単サイト効果であることを提案した。同型構造の反強磁性体NdCo2Zn20およびY0.8Nd0.2Co2Zn20の多結晶Co-NMR実験を行い,基底状態について調べた。Y0.8Nd0.2Co2Zn20では,低温でCo-NMRスペクトル線幅の異方的な拡がりを観測し,磁化率に対応したNdの局在磁気モーメントによる影響を明らかにし,核四重極周波数の評価を行った。新たな近藤効果の機構が期待されるNdイオンに局在する3個の4f電子による物性に関連して,立方晶金属磁性体Nd3Rh4Sn13の合成と磁気特性評価および放射光X線と中性子の量子ビーム回折実験による研究を行い,結晶構造を同定し,磁性の相転移を見出した。また,立方晶PrMgNi4は0.7 K付近に比熱の肩を示し相転移は起こさないが,同型構造の新物質であるPrCdNi4では1 K付近で比熱のカスプ異常が観測され,非磁性の相転移の可能性がある。
2: おおむね順調に進展している
希薄系の2チャンネル近藤効果に関する現在までの研究は順調に進展している。進捗状況については,以下の通りである。(1) Pr希薄系La(Pr)Ti2Al20の単結晶を作製し,強四極子秩序と非フェルミ液体的挙動の相関を見出した。Prが希薄な組成において,非フェルミ液体的挙動がPr組成でよくスケールできることから,単サイトの四極子近藤効果が起こっていると考えられる。また,La(Pr)V2Al20の1.2 K付近の比熱の山は磁場とともに高温側へシフトし,その温度幅は磁場の2乗に比例することから,非磁性の基底二重項に起因するものである。(2) 昨年度からのNdCo2Zn20の測定に加え,Y0.8Nd0.2Co2Zn20多結晶のCo-NMRによる研究を行った。Y0.8Nd0.2Co2Zn20多結晶のCo-NMRスペクトルの温度依存性は, NdCo2Zn20とは異なり,低磁場側に裾を引く異方的な形状を持っている。Co核周りのNdモーメントの分布がスペクトル形状に現れ,線幅の拡がりが磁化率に対応している。Y0.8Nd0.2Co2Zn20のNMRスペクトルの解析から,5.5MHz付近にCo-NQRと思われる信号を検出した。(3) 放射光X線回折実験(KEK PF)によりNd3Rh4Sn13が335 Kで構造相転移を示し,低温相はカイラル対称構造であることを明らかにした。これは過去に明らかにしてきたR3T4Sn13 (R: 希土類元素,T: 遷移金属元素)での構造相転移と類似している。さらにJ-PARCでの中性子回折実験により1.65 K以下で反強磁気秩序をとることも見出し,カイラル構造での磁気秩序を示す電子系であることを見出した。(4) 立方晶fcc構造をとるPrCdNi4を作製し,1 K付近で比熱のカスプ異常を観測した。この異常は磁場に鈍感であることから,非磁性の相転移であると考えられる。
希薄系の2チャンネル近藤効果に関する実験的な確証を得ることを目指して,今後は下記の計画に沿って研究を推進する。(1) 非磁性基底二重項をとるPr希薄系Y(Pr)Ir2Zn20の単結晶をZnアイソトープを用いて作製する。NMR測定によって四極子の揺らぎに伴う磁気揺らぎを観測し,2チャンネル近藤効果に特徴的な振る舞いを捉える。(2) 同型構造のLa(Pr)Ti2AL20の非フェルミ液体的挙動に関して,弾性定数を観測し,四極子との相関を捉える。(3) La(Pr)V2Al20の非フェルミ液体的挙動について,磁場とPr組成に対する変化を捉え,四極子近藤効果の寄与を明らかにする。(4) 4f3配位をとるY0.8Nd0.2Co2Zn20のNMR実験と,Co-NQRによるゼロ磁場でのNdCo2Zn20およびY0.8Nd0.2Co2Zn20の実験を行い,低温での磁気秩序と磁気揺らぎについて調べる。Co-NQRはNdCo2Zn20ではNdモーメント揺らぎのため未だCo-NQR信号の検出に成功していないので,Y0.8Nd0.2Co2Zn20のNQR信号を参考に信号探索を行う。(5) Nd3Rh4Sn13の磁気秩序構造の解析を行って磁気モーメントの大きさを評価し,さらに秩序化に至る磁気ダイナミクス測定により強相関電子効果の有無を検証する。また遷移金属元素が異なるNd3T4Sn13の合成にも着手し,この物質群全体の磁性を明らかにする量子ビーム散乱研究を推進する。(6) 立方晶PrCdNi4の単結晶試料を作製し,磁場方向に対する相転移温度の変化を調べる。Prのfcc構造に特有の秩序変数の可能性について,平均場計算を行って議論する。
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すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 2件、 査読あり 8件) 学会発表 (31件) (うち国際学会 6件、 招待講演 6件) 備考 (2件)
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