研究課題/領域番号 |
18H01184
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
前田 公憲 埼玉大学, 理工学研究科, 准教授 (70229300)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | クリプトクロム / 磁気感受 / 電子スピン共鳴 / 磁場効果 / 光シグナル / ラジカル対 / 電子スピン / 蛋白質 |
研究実績の概要 |
本研究は従来の過渡吸収測定法を,より飛躍的に改善する事により1)サンプルをいたわりつつも,測定感度を向上させ,同時に安定な測定を実現する事による測定精度の向上,2)3次元コイルを用いたラジカル対ダイナミクスの3次元可視化による異方的な磁場効果測定法の確立,等を目的とする.昨年度は2)に着目し以下のように研究を進めた. 1)昨年度テストが終わっているCRDS法をさらに進めて,より安定なCRDS測定を可能とするミラーの導入や,サンプルセルの高度化を行い,より高感度の測定を求めた. 2)新たな電源と自作によるコイルを製作し,いよいよ,多次元的な磁場効果測定にむけてのシステムの製作を行った.コイルに流す電流をパルス化することにより,コイルに対する熱の効果を抑えて,安定な磁場効果測定を図った. 3)血清アルブミン,とアントラキノン誘導体とを結合させ光化学反応による磁場効果を検討し,極めて小さな磁場中での磁場効果(低磁場効果)を持つ事が明らかとなり,それに対する磁場スイッチングの効果から,アルブミン中のポケット内部におけるアントラキノン誘導体ラジカルの挙動が,より鮮明に明らかになってきた.この系におけるラジカル対が2段階の挙動をすることが明らかとなったが,この事は同様に低磁場効果を示し,動物の磁気感受において最も有力視されているクリプトクロムとの類似点がある.以上の発見を本年度において分子動力学シミュレーションを用いて解析し,論文誌に発表する準備を行っている.タンパク質系でのこのようなクリアな磁気感受と分子動力学との関連の研究は他に例がなく,極めて重要な成果であると考えている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年に続いて,試行錯誤が必要ながらも,3次元測定に向けての装置開発は確実に進みつつある.予算の都合から,とりあえず2次元コイルをつくり,思いがけず安価での電源の購入に成功したため,昨年度のOPOの初期不良による遅れを取り戻した.一方で装置開発を続けつつも,テストサンプルである蛋白質系においては,新しい低磁場効果の発見に加えて,磁場スイッチング実験による,低磁場効果と磁場スイッチングとの関係における,新たな理論的な知見を得て,従来その物理的な描像の獲得が難しかった,低磁場効果に対する量子コヒーレンスの問題に新たな描像を与えることに成功した.同時にタンパク質中でのラジカル対挙動の詳細な解析に成功し,現在論文執筆と分子動力学シミュレーションによる解析も続けられている.並行して,本年から予定しているクリプトクロム分子合成に向けての準備も進んでおり,本年度においてその収穫が得られることが予想される.以上の内容について総合的に判断した結果,本研究はおおむね順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
本年度は,これまで得たタンパク質中での分子ダイナミクスの成果の論文発表.異なるタンパク質複合系の探索,多次元コイルのチューニングによる多次元測定へのチャレンジを行う.クリプトクロム分子の合成とそのテスト.さらに,並行して進められてきたラジオ波パルスを用いた化学反応制御法を,本研究において実験的に融合し,磁場の異方性や光の偏光によるフォトセレクション法のみならず,電磁波の分極も含めた多次元化を推し進める予定である.
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