研究実績の概要 |
生体組織のための連続体モデルの定式化を行った。特に細胞分裂が起きるとき、細胞分裂自身は周囲に力をフォースダイポールとして与えるが、一方でその参照状態を変えることで弾性エネルギーを緩和するという相反する性質を持つ。この効果を理論的整合性を満たすように連続体モデルに取り入れた定式化を行った。また、組織の自由境界や二種混合細胞系を扱えるように、フェーズフィールド(PF)を取り入れた定式化を行った。さらに、細胞の運動を極性場として取り入れることで、培養細胞の実験で見られるような振動的な集団運動を再現することに成功した。 また、実験動画から細胞のトラッキングを行い、個々の細胞の変形や細胞分裂、再配置をテンソルとして定量する解析アルゴリズムの実装を進めた。理論から導出されたキネマティックな方程式が実験データでも成り立つことを確認した(論文準備中)。また、コントロールと、組織に異常が出るdsRNAiについて比較を行った。推定した応力場と細胞の形態を比べ、両者が強く相関していることを確認し、力と変形の関係(構成方程式)について一定の知見を得ており、引き続き調べる。 他に、曲面上でのTuringパターンを調べた。曲面の形状が細胞運動やパターンを調べるために、最小限の設定として軸対象な曲面上でのパターン形成を調べたところ、これまでの知見とは異なり、平面で静止したパターンが曲面上で運動を引き起こすことを発見した。これは、1次元では起こり得ず、曲がった2次元曲面でのみで起こる新規なパターン伝達機構であることを理論的に解析した(Nishide and Ishihara, Phys. Rev. Lett. in press)。また、分子が保存量する反応拡散系が示す粗大化過程についても研究を行った(Tateno and Ishihara, Phys. Rev. Res. 2021)。
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