研究課題
プロトン移動の実例を集めるため,植物や藻類の光合成において水を分解し酸素を発生する反応を触媒する蛋白質である光化学系IIに着目した.この蛋白質ではMn4CaO5錯体が水分解反応 (2H2O → O2 + 4H+ + 4e-) を触媒している.この反応はMn4CaO5錯体の酸化状態の変化 (S0→S1→S2→S3→S4→S0) に伴って進行する.X線結晶構造解析では,X線照射による還元を受けている可能性があるので,量子化学/分子力学法により過還元状態のMn4CaO5錯体の構造を調べた.その結果,化還元状態ではCaに配位した水分子W3が向きを変え,水素結合を通じてW3のプロトンはO5に移動しうることがわかった.また,プロトン移動は電子移動と共役しているため,Mn4CaO5錯体からの電子移動についても調べた.具体的には量子化学/分子力学法により軌道エネルギーを計算し,そこから酸化還元電位を算出した.その結果,Mn4CaO5錯体のS0→S1遷移における酸化還元電位 (730 mV) はS1→S2遷移における酸化還元電位 (826 mV) よりも小さいことがわかった.次に,プロトン移動が起こる光化学系IIと,プロトン移動が起こらない蛋白質「アクアポリン」とを比較するため,結晶構造を利用し,量子力学/分子力学(QM/MM)と分子動力学計算(MD)計算を併用して調べた.その結果,光化学系IIではプロトン移動の経路となっている水分子が周囲のアミノ酸との水素結合によって固定されている一方,アクアポリンでは水分子が大きくゆらいでいることがわかった.
2: おおむね順調に進展している
初年度は,計画に遅れが出たが,本年度でその遅れを取り戻し,具体的な蛋白質についてはプロトン移動可能な経路とプロトン移動不可能な経路の特徴を明らかにすることができたため.
具体的な蛋白質についてはプロトン移動可能な経路とプロトン移動不可能な経路の特徴が明らかになったので,このことを一般化して,多の蛋白質にも適用できるように定式化を行いたい.
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Scientific Reports
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