研究課題/領域番号 |
18H01187
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
柳澤 実穂 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (50555802)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 人工細胞 / 異常拡散 / 高分子混雑 / 蛍光相関分光法 |
研究実績の概要 |
様々な生体高分子で混雑する細胞中では、分子の異常拡散やエルゴード性の破れが生じることが分かっている。その要因の一つとして、高分子混雑に由来する高分子の粘弾性化に伴う遅い異常拡散が提案されてきた。申請者らはごく最近、バルクでは通常拡散を示す高分子溶液が、細胞モデル閉じ込めによりマイクロサイズでのみ異常拡散となること、また異常拡散性が高分子の形に依存して変化することを見出した。すなわち、従来のモデルと異なり、マイクロサイズ閉じ込めと高分子の形状の協奏によって細胞内の異常拡散性が創発されていることを示唆する。そこで本研究では細胞モデル中での(1)異常拡散性と高分子の形状、サイズのパラメーター解析、(2)高空間解像度での拡散挙動解析による膜効果・空間サイズ効果の分離、(3)エルゴード性解析による異常拡散要因の推定を通し、細胞でみられる異常拡散の物理メカニズムを導くことを目的としている。 2018年度は、細胞モデル中での分子拡散解析から、高分子の形とサイズ、分散性を変化させることで、高分子の個性と異常拡散性との相関関係を導くことを目的とした。本目的のため、線状高分子であるpoly(ethylene) glycol(PEG)と球状タンパク質であるbovine serum albumin(BSA)を混雑分子として用 い、分子拡散に対する細胞モデルのサイズ依存性を調べた。その結果、(1)高分子濃度がある閾値よりも高くなると小さな細胞モデル中で異常拡散が現れること、異常拡散が現れる高分子濃度は、球状であるBSAよりも線状であるPEGの方が低くなること、その要因として(2)細胞モデルがもつ微小体積効果よりも表面を覆う膜界面効果の方が支配的であること、を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
細胞モデル中で観察される異常拡散において、微小体積よりも表面を覆う膜界面の効果がより支配的となることが実験で示されたため、研究計画を変更し、界面物性や細胞モデルの形状を変える等、界面の膜効果をより詳細に解析する実験を追加した。これにより当初想定していた研究計画は遅れたが、本研究目的に対する理解はより進展してきており、全体的はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は、2018年度に得られた結果に基づき、(1)なぜ線状高分子の方が球状高分子よりも低濃度で異常拡散が生じる理由について、高分子のサイズ多分散性を考慮しつつ高分子混雑環境を考えることで説明を目指す。その後、(2)異常拡散の出現を支配すると考えられる膜界面効果を、膜物性や細胞モデルの形状を変化させた際の分子拡散解析と、その時間スケール依存性の解析から定量的に評価する予定である。
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