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2018 年度 実績報告書

分子論的に予言するガラス転移の劇的スローダウン:遷移状態と輸送特性

研究課題

研究課題/領域番号 18H01188
研究機関大阪大学

研究代表者

金 鋼  大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (20442527)

研究分担者 川崎 猛史  名古屋大学, 理学研究科, 講師 (10760978)
芝 隼人  東北大学, 金属材料研究所, 特任助教 (20549563)
中村 壮伸  国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 主任研究員 (10642324)
研究期間 (年度) 2018-04-01 – 2022-03-31
キーワードガラス転移 / 過冷却液体 / フラジリティ / ボゾンピーク / ストークス-アインシュタイン則 / 分子シミュレーション
研究実績の概要

ガラス転移を示す代表物質はシリカガラス、金属ガラス、高分子ガラスなどである。しかしながら、粘性の温度依存性から定量化される活性化エネルギーは質的に異なり、シリカガラスではほぼ温度依存性が見られないのに対し、金属ガラスでは温度低下とともに増大する。本研究課題ではガラス転移温度とそれまでの温度依存性の活性化エネルギーを意味するフラジリティと呼ばれる概念に注目し、Lennard-Jones系を元にしてフラジリティをシリカガラスから金属ガラスへ人工的に変化させる仮想モデルを用いたポテンシャル調整分子動力学シミュレーションをおこなっている。フラジリティとは協調性を表現する量であると考えられる。この協調性に関連した現象として、Stokes-Einstein則の破綻や非調和的に低周波振動が促進されるボゾンピークなどガラス物質の普遍的な異常性などの未解決問題が挙げられる。これらを解明することはフラジリティ起源の同定そのものである。まず、ボゾンピークと呼ばれるアモルファス固体で見られる励起振動モードの物理的起源を、フラジリティの観点から明らかにすることを目指す研究に着手した。実験からはフラジリティが異なるシリカガラスと金属ガラスでボゾンピーク強度が著しく変化することが知られているが、代表者による仮想モデルを用いることによって、シリカガラスから金属ガラスへ遷移するとき振動状態密度がどのように変化するかを解析し、ガラス緩和メカニズムの包括的理解への道筋をつけた。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

金属ガラスやシリカガラスを物質種を超越してガラス転移の起源を明らかにするためには、ガラスのフラジリティと振動状態密度との相関を明らかにする必要がある。本研究により振動状態密度においてフラジリティによらずボゾンピークが存在することを見出した。さらに、動的散乱因子から特徴づけられる音波物性を定量化することが可能となり、弾性不均一理論やランダム格子モデルにおけるIoffe-Regel基準などと直接比較することで、理論的進展へのフィードバックを目指せる状態に到達した。

今後の研究の推進方策

ガラスに関する研究は基礎科学の問題としても材料設計の問題としても非常に重要な課題であり多岐にわたる。しかしながら、なぜ物質種によらず分子スケールから時間スケールが乖離し劇的スローダウンを伴ってアモルファス構造が安定的になるのか、その根本を明らかにするのは依然は難しい。本研究課題では、シリカガラス、金属ガラスだけでなく高分子ガラスや過冷却水を含めた研究を展開する予定であり、主に分子動力学シミュレーションによる研究をおこない、知見統合を通した問題解決を目指す。

  • 研究成果

    (30件)

すべて 2019 2018

すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (28件) (うち国際学会 5件、 招待講演 3件)

  • [雑誌論文] Free-energy analysis of the hydration and cosolvent effects on the β-sheet aggregation through all-atom molecular dynamics simulation2019

    • 著者名/発表者名
      Masutani Keiichi、Yamamori Yu、Kim Kang、Matubayasi Nobuyuki
    • 雑誌名

      The Journal of Chemical Physics

      巻: 150 ページ: 145101

    • DOI

      10.1063/1.5088395

    • 査読あり
  • [雑誌論文] How do hydrogen bonds break in supercooled water?: Detecting pathways not going through saddle point of two-dimensional potential of mean force2018

    • 著者名/発表者名
      Kikutsuji Takuma、Kim Kang、Matubayasi Nobuyuki
    • 雑誌名

      The Journal of Chemical Physics

      巻: 148 ページ: 244501

    • DOI

      10.1063/1.5033419

    • 査読あり
  • [学会発表] 粗視化分子動力学シミュレーションを用いた高分子溶融体の振動状態密度解析2019

    • 著者名/発表者名
      友重直也, 水野英如, 金鋼, 松林伸幸
    • 学会等名
      日本物理学会第74回年次大会
  • [学会発表] ジペプチドの構造変化を記述する反応座標とコミッター2019

    • 著者名/発表者名
      森勇介 岡崎圭一, 金鋼, 松林伸幸
    • 学会等名
      日本物理学会第74回年次大会
  • [学会発表] 遷移経路サンプリングとコミッター解析によるジペプチド構造変化を記述する反応座標の探索2019

    • 著者名/発表者名
      金鋼
    • 学会等名
      研究会「凝縮系の理論化学」
    • 招待講演
  • [学会発表] 溶媒中ナノ粒子の流体力学挙動と溶媒和構造:物理化学と流体力学の融合による横断的解析2018

    • 著者名/発表者名
      水田圭亮, 石井良樹, 金鋼, 松林伸幸
    • 学会等名
      第8回ソフトマター研究会
  • [学会発表] 粗視化分子動力学シミュレーションを用いた高分子溶融体のガラス転移温度の解析2018

    • 著者名/発表者名
      友重直也, 水野英如, 金鋼, 松林伸幸
    • 学会等名
      第8回ソフトマター研究会
  • [学会発表] コミッター解析を用いたジペプチドの構造 異性化を記述する反応座標の選択に関する考察2018

    • 著者名/発表者名
      森勇介, 金鋼, 松林伸幸
    • 学会等名
      第32回分子シミュレーション討論会
  • [学会発表] 粗視化分子動力学シミュレーションを用い た高分子溶融体のガラス転移温度の解析2018

    • 著者名/発表者名
      友重直也, 水野英如, 金鋼, 松林伸幸
    • 学会等名
      第32回分子シミュレーション討論会
  • [学会発表] 動的不均一性から探る過冷却水に内在する 協調的運動2018

    • 著者名/発表者名
      菊辻卓真, 川崎猛史, 金鋼, 松林伸幸
    • 学会等名
      第32回分子シミュレーション討論会
  • [学会発表] 分子動力学シミュレーションによるβシー ト凝集の自由エネルギー解析2018

    • 著者名/発表者名
      増谷佳一, 山守優, 金鋼, 松林伸幸
    • 学会等名
      第32回分子シミュレーション討論会
  • [学会発表] 溶媒中ナノ粒子の流体力学挙動と溶媒和構 造:物理化学と流体力学の融合による横断的解析2018

    • 著者名/発表者名
      水田圭亮, 石井良樹, 金鋼, 松林伸幸
    • 学会等名
      第32回分子シミュレーション討論会, 産業技術総合研究所
  • [学会発表] Kinetic pathways of hydrogen bonds break in supercooled water2018

    • 著者名/発表者名
      Kang Kim, Takuma Kikutsuji, and Nobuyuki Matubayasi
    • 学会等名
      Joint Conference of EMLG/JMLG Meeting 2018 and 41st Symposium on Solution Chemistry of Japan
    • 国際学会
  • [学会発表] Connecting hydrogen-bond network rearrangements and diffusional molecular motions in supercooled water2018

    • 著者名/発表者名
      Takuma Kikutsuji, Kang Kim, and Nobuyuki Matubayasi
    • 学会等名
      Joint Conference of EMLG/JMLG Meeting 2018 and 41st Symposium on Solution Chemistry of Japan
    • 国際学会
  • [学会発表] Free energy analysis of amyloid aggregation by molecular dynamics simulation2018

    • 著者名/発表者名
      Keiichi Masutani, Yu Yamamori, Kang Kim, and Nobuyuki Matubayasi
    • 学会等名
      Joint Conference of EMLG/JMLG Meeting 2018 and 41st Symposium on Solution Chemistry of Japan
    • 国際学会
  • [学会発表] ガラス転移の劇的スローダウン:分子シミュレーションによるシリカガラスと金属ガラスを俯瞰的に理解する試み2018

    • 著者名/発表者名
      金鋼
    • 学会等名
      第79回分応用物理学会秋季学術講演会
    • 招待講演
  • [学会発表] 遷移状態理論から解析する過冷却水中における水素結合破断:透過係数の温度依存性と活性化エネルギーの物理的実態2018

    • 著者名/発表者名
      菊辻卓真, 金鋼, 松林伸幸
    • 学会等名
      第12回分子科学討論会
  • [学会発表] 高分子粗視化モデルにおけるガラス転移点でのセグメント密度2018

    • 著者名/発表者名
      友重直也, 金鋼, 松林伸幸
    • 学会等名
      日本物理学会2018年秋季大会
  • [学会発表] ジペプチドの構造変化を記述する反応座標の選択2018

    • 著者名/発表者名
      森勇介, 金鋼, 松林伸幸
    • 学会等名
      日本物理学会2018年秋季大会
  • [学会発表] ナノ流体の流体力学半径に対する溶媒和構造による特徴付け2018

    • 著者名/発表者名
      水田圭亮, 石井良樹, 金鋼, 松林伸幸
    • 学会等名
      日本物理学会2018年秋季大会
  • [学会発表] ナノ粒子が示す流体力学的挙動の全原子分子シミュレーションによる解析2018

    • 著者名/発表者名
      金鋼, 水田圭亮, 石井良樹, 松林伸幸
    • 学会等名
      日本流体力学会年会2018
  • [学会発表] On the violation of Stokes-Einstein relation in supercooled water: Role of hydrogen-bond lifetime2018

    • 著者名/発表者名
      Kang Kim
    • 学会等名
      京都大学基礎物理学研究所国際モレキュール型プログラム "Rheology of disordered particles - suspensions, glassy and granular materials"
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] Identification of time-scales that support violation or preservation of Stokes-Einstein relation in supercooled water2018

    • 著者名/発表者名
      Takeshi Kawasaki, Kang Kim
    • 学会等名
      Unifying Concepts in Glass Physics VII
    • 国際学会
  • [学会発表] 自由エネルギー曲面の鞍点を通らない反応経路の検出:水中における水素結合破断の非アレニウス的挙動2018

    • 著者名/発表者名
      菊辻卓真, 金鋼, 松林伸幸
    • 学会等名
      第21回理論化学討論会
  • [学会発表] MDシミュレーションを用いたβシート凝集の自由エネルギー解析2018

    • 著者名/発表者名
      増谷佳一, 山守優, 金鋼, 松林伸幸
    • 学会等名
      第21回理論化学討論会
  • [学会発表] ジペプチドの構造変化における反応経路と反応座標2018

    • 著者名/発表者名
      森勇介, 金鋼, 松林伸幸
    • 学会等名
      第21回理論化学討論会
  • [学会発表] 過冷却水において水素結合はどのように切れるのか?: 自由エネルギー曲面の鞍点を通過しない遷移経路の検出2018

    • 著者名/発表者名
      金鋼
    • 学会等名
      東京大学物性研究所短期研究会「ガラス転移と関連分野の最先端研究」
  • [学会発表] 高分子融体のガラス化過程:構造とダイナミクス2018

    • 著者名/発表者名
      友重直也, 金鋼, 松林伸幸
    • 学会等名
      東京大学物性研究所短期研究会「ガラス転移と関連分野の最先端研究」
  • [学会発表] ジペプチドの構造変化における反応経路と反応座標2018

    • 著者名/発表者名
      森勇介, 金鋼, 松林伸幸
    • 学会等名
      東京大学物性研究所短期研究会「ガラス転移と関連分野の最先端研究」
  • [学会発表] 過冷却水中における水素結合が形成するネットワーク構造と破断プロセスの関係2018

    • 著者名/発表者名
      菊辻卓真, 金鋼, 松林伸幸
    • 学会等名
      東京大学物性研究所短期研究会「ガラス転移と関連分野の最先端研究」

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公開日: 2021-01-27  

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