研究課題/領域番号 |
18H01195
|
研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
大原 渡 山口大学, 大学院創成科学研究科, 教授 (80312601)
|
研究分担者 |
吉田 雅史 山口大学, 大学院創成科学研究科, 助教 (80638825)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | ペアイオンプラズマ / 水素負イオン / プラズマ・核融合 |
研究実績の概要 |
正イオンビームエネルギーを決めるドライバープラズマ電圧と負イオンを引出す制御グリッド電圧を制御パラメータとして,負イオン崩壊を抑制できる領域の詳細を調べた.昨年度において,正イオンビームエネルギーよりも制御グリッド電圧が高い範囲で崩壊が抑制されることを明らかにしていた.更に2次元コンターマップで詳細に示せるようにしたところ,制御グリッド電圧がドライバープラズマ電圧の1.6倍程度で,最適条件は線形に比例することが明らかになった.また,正イオンビームエネルギー分布を測定したところ,バルク正イオンのエネルギー幅に比べて,エネルギー幅が3倍程度広く,エネルギー散乱していることが明らかになった. 負イオン崩壊機構の解明に関して,光吸収によって,回転対構造の破壊を試みた.波長は長波長であることが望ましいと考えられるため,生成されたイオン性プラズマへ赤外領域(940 nm)の光照射を行った.光照射すると,プローブの正飽和電流はあまり変化しないが,負飽和電流は増加した.これは回転対構造の破壊といえるのかどうか,継続して検討している. 密度は低いが正イオンビームの無いイオン性プラズマ中で,外部励起波の分散関係を測定した.20 kHz~500 kHzの周波数帯において,後進波の特徴(dω/dk < 0)を示すモードが測定された.正イオンビームを重畳すると,200 kHz~400 kHzにおいて波数が大きい(波長の短い)別の進行波が現れ,400 kHz以上では後進波へ変化する.このモードが変換する周波数は,正イオンビーム密度に依存していることが明らかになった.また,より高周波数帯においては,位相速度が負値となる逆進行波も測定されているが,存在する理由が物理的に理解し難いため,何か他の要因が影響しているのか確認を行っている.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
水素ペアイオンプラズマを実現するために,陽子密度を増加させるプロトン比の向上が必要である.局所空間におけるECR放電により水素原子を生成して放電領域へ導き,プロトン比の向上を目指した.水素分子の解離が不十分だと思われ,プロトン比向上において目立った効果は得られなかった.そこで,正イオンビームを生成するためのドライバープラズマ源を増強して,主放電のターゲットプラズマ源と同様のプラズマ源をタンデム接続して,正イオンビーム密度増加とプロトン比の向上を試みた.プラズマ源は概ね完成したが,実験測定する段階には至っていない. 正イオンビームを重畳しながら,イオン性プラズマ中の静電波の分散関係の測定を行った.イオン性プラズマの特徴の一つである後進波が明確に得られ,正イオンビームの影響で,別のモードが励起されることも明らかになった.測定されたモードの物理的な解釈は進んでいないが,実験的にその伝搬特性は明らかになりつつある.バルク正イオン密度と比較して,正イオンビーム密度は一桁以上少なく,ビームの効果をより明確にするためには,ビーム密度の向上が必要である.上述の増強されたドライバープラズマ源を用いた伝搬測定が進めば,波動伝搬におけるビームの影響を明らかにできる予定である. 負イオンの崩壊が発生する機構解明において,仮説を立てた回転対構造の存在検証をするために,赤外領域の光を照射して破壊を試みた.光照射領域において,プローブ負電流は増加するが,正電流はあまり変化しないという結果が得られた.しかし,これは回転対構造が破壊された明確な証拠とはいえない.更に積極的な破壊を試みる必要がある. 以上のように,実施予定にしていた項目は,おおむね計画通りに実行した.想定通りの効果が得られなかった項目については,代替の方策の準備を進めた.明らかにするべき項目は多いが,おおむね順調に進展していると評価した.
|
今後の研究の推進方策 |
(1)原子状水素ペアイオンプラズマを実現するためには,分子状正イオンの存在割合を減少させて,プロトン比を向上させることが必要である.局所ECR放電による水素原子生成は不十分だったので,同規模の熱陰極直流アーク放電部をタンデム接続して,1段目である程度水素を解離させて,2段目で更に解離・電離させて,プロトン比の向上を図る.プロトン比が高くなるプラズマ電位差や分離グリッド電位条件を明らかにする. (2)群速度が負値となる後進波の存在は予想された通りだが,位相速度が負値となる逆進行波が測定されている.物理的に説明することは難しく,想定外の要因が影響していると考えられる.プラズマは複数の孔から下流へ出てきて,数cmの距離で混ざり合うことが明らかになっている.中心部の孔から軸方向への伝搬波に注目しているが,周辺部から中心部へプラズマが混ざることによって軸垂直方向の波数成分が現れて,それが軸方向の位相差に影響を与えた結果として,逆進行波として測定されている可能性を検討している.幾何的な要因を排するために,単孔のみプラズマの通過を許して,その伝搬特性を明らかにして,この可能性を検証する予定である. (3)多孔を通過したプラズマではなく,磁場配位を工夫して直径の大きな単孔からイオン性プラズマを生成する手法も検討している.これが可能になれば,必ずしも正イオンビームを用いる必要がなくなり,静かなプラズマにおける波動伝搬が可能になる.この新方式のイオン性プラズマ源の開発にも取り組む予定である. (4)負イオン崩壊機構の解明に関して,仮説を立てている正負イオンから成る回転対構造を積極的に破壊して,その存在を実証しようとしている.高周波電場と遠赤外線の照射によって破壊を試みたが,得られた結果は不完全である.電極構造を工夫して,高周波電場の照射による破壊を試みる予定である.
|