研究課題
核融合炉ダイバータで使用されるタングステン(W)は、室温から数百度までで生ずる低温脆性と再結晶後の機械特性の劣化、事故時の酸化による放射化Wダストの炉内飛散が課題として指摘されている。本研究では、延性脆性遷移温度(DBTT)が従来材に比べ低く再結晶温度が高い結晶粒微細化W合金と、室温延性は有するものの再結晶温度が従来材に比べ低いWフォイルラミネートの利点を融合し、さらに、クロム(Cr)添加により耐酸化性を付与した、耐酸化性結晶粒微細化W合金ラミネートの開発を目的とする。2021年度は、KW-Cr-Y系材料(カリウムドープW(KW)、KWにCrを5%ないし10%添加したKW-5%CrおよびKW-10%Cr、後者にイットリウム(Y)を添加したKW-10%Cr-0.5%Y)について、①Cr添加による耐酸化性向上のメカニズム、②延性改善の可能性、③高硬度かつ低延性の材料を基材とした延性を有するWラミネートの実現可能性について検討を進めた。①については、これまで評価したKWとKW-5%Crに加え、KW-10%Crついても同様に評価した結果、KW-10%CrはCr量の多さにより保護性の高い皮膜が形成するものの、材料内の空隙はCr量の少ない材料に比べてサイズも数密度も大きいため、空隙が素早く酸化され長時間試験ではそれを起点に酸化を進行させることが明らかになった。②について、現状の素材は比較的硬さの大きい焼結体となっていることから圧延等の加工が焼結後にできず、延性等の機械特性の制御が困難であったが、Crを1%程度まで低減することにより改善できる見通しが得られた。③については、室温で延性を有さないKWから機械加工で製作した薄板を用いてラミネートを製作し、シャルピー衝撃試験と4点曲げ試験を実施した結果、製作条件の調整により、DBTTの低減や曲げ変形の発現が可能であることが明らかになった。
1: 当初の計画以上に進展している
2020年度に新型コロナウィルスの影響により対応が遅れていた課題を含め、計画通りに研究を進めることができた。その成果により、高硬度かつ低延性のKW-Cr-Y系材料を用いても、延性を有するラミネート材料の製作が可能である見通しが概ね得られたため、本研究の最終年度である2022年度を前に、本研究の目標達成に近づいたものと考えられる。よって、現在までの進捗状況としては当初の計画以上に進展していると判断された。
2022年度は、耐酸化性の向上が示されたKW-Cr-Y系材料について、①Cr添加による耐酸化性向上のメカニズムと、③高硬度かつ低延性の材料を基材とした延性を有するタングステンラミネートの実現可能性についての2021年度における検討結果やその成果を基に、本研究を推進し、成果をまとめる予定である。①については、2021年度までの個別の材料に関する評価結果を総合し、耐酸化性向上のメカニズムを包括的に明らかにする予定である。一方、当初は、課題②としてKW-Cr-Y系材料の更なる延性改善を目指していたが、耐酸化性向上の鍵となるCr量を低減しない限り延性改善は困難であると判断されたため、本研究では、素材の延性改善ではなく、③により目標を達成することとした。2021年度の研究により概ねその見通しが得られたため、2022年度は、①と③の結果を基に高硬度かつ低延性のKW-Cr-Y系材料を用いた延性を有するラミネート材料の製作指針を見出し、研究目標を達成する予定である。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件)
Nuclear Fusion
巻: 62 ページ: 026045
10.1088/1741-4326/ac4062
Journal of Nuclear Materials
巻: 553 ページ: 153009
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