研究課題/領域番号 |
18H01205
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
北野 勝久 大阪大学, 工学研究科, 准教授 (20379118)
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研究分担者 |
座古 保 愛媛大学, 理工学研究科(理学系), 教授 (50399440)
白木 賢太郎 筑波大学, 数理物質系, 教授 (90334797)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | プラズマ医療 / 大気圧プラズマ / 活性窒素種 / プラズマ誘起液中化学反応場 / 反応速度論 / 過硝酸 / アミノ酸 |
研究実績の概要 |
プラズマにより液中に生成された化学種による生体への影響を評価するため、生体高分子を化学プローブとして、化学修飾を評価する。プラズマからは様々な化学種が供給されるが、その反応素過程として、生体高分子レベルの化学修飾が最も重要であるにも関わらず、これまで当該分野ではこのようなコンセプトに基づく研究がほとんどなされてなかった。生体高分子の中でも生化学的な活性を持つタンパク質への化学修飾が最も重要であると考えるが、反応単位はアミノ酸残基が主であると考えており、20種類のアミノ酸に対する化学修飾を反応速度定数から検討した。アミノ酸レベルでの化学反応は、それぞれ、アミノ酸と化学種の化学反応マトリクスを求めると良い。しなしながら、我々が着目している過硝酸(HOONO2)に関しては、そのようなデータベースが無いために、特に集中して反応速度の評価を進める。また、活性化エネルギーを求める必要があるため、温度を変化させながら反応速度を評価する。多くの活性化学種は文献により活性化エネルギーが判明する場合もあるが、このようにして化学種とアミノ酸との活性化エネルギーを求めることにより、プラズマ医療などにおける主たる化学修飾が明らかになると考える。しかしながら、反応系は化学種とアミノ酸の1次的なもので終わらず、反応生成物がさらに反応するなどの現象も想定される。生体応用を考えると、多種多様な生体高分子が存在するために、基本的には最も反応定数が高い反応が優位に進むはずであり、このような反応を見つけるというのが実用的な反応経路の理解には役に立つと考える。速度定数が小さくて反応がほとんど進まない経路であっても、生物学的には致命的となる場合もあるので、この辺りも考慮しながら研究を進める必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
我々の研究により、プラズマ処理水中の有効成分が過硝酸(HOONO2)であると明らかにしているが、過硝酸の生体応用の研究は過去に例が無いために、今回、新しくアミノ酸との反応速度定数を測定することを行った。一部のアミノ酸は用いている発色試薬を還元するなど複雑な反応をするため、新しく測定メソッドを開発して測定を行った。既往研究で既に明らかにされている、次亜塩素酸、オゾン、ヒドロキシラジカル、ヒドロペルオキシラジカル、スーパーオキシドアニオンラジカル、過酢酸とアミノ酸の反応速度定数と比較を行ったところ、過硝酸は特異な反応性を有している事が判明した。全アミノ酸の中で、Metのみが反応速度定数が大きく、選択的な反応性を有していた。これはタンパク質中のアミノ酸残基のうちMet残基が選択的に酸化修飾されることを示唆している。また、Metの反応速度乗数の絶対値が他の化学種に比べて相対的にかなり小さい事が判明した。これらの反応速度乗数の特異性は、プラズマ処理水の過硝酸を消毒に用いる場合に、殺菌力と安全性の比に優れているという実験事実を支持している。特定のアミノ酸のみに反応し、かつ速度乗数が小さいことから、効率的にタンパク質の不活化を行っていると考えられる。殺菌剤として考えた場合に、有機夾雑物に対する耐性が非常に高い事も同様である。プラズマ医療応用の反応素過程の一つのパスとして、過硝酸による効果を検討する際に非常に重要な知見であると考える。
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今後の研究の推進方策 |
冷却した水にプラズマを照射することでプラズマ処理水中に過硝酸が残留し、酸性環境下で非常に高い殺菌力を得る低pH法をこれまでに開発してきた。さらに、有機夾雑物存在下においても、殺菌力を維持できることが実験的に分かっており、次亜塩素酸と比較すると同等の殺菌力低下をもたらすには数10倍の高濃度のタンパク質を混合する必要があった。他の殺菌剤で用いられる化学種と、いくつかの菌種で殺菌力の比較を行い、さらに有機夾雑物を混合したときの殺菌力の変化の違いを反応速度論的に明らかにすることを行う。プラズマ処理水の過硝酸と生体との相互作用を検討する上で、このような研究アプローチは重要であると考える。 プラズマ処理水中に生成される過硝酸の反応素過程に関しても、雰囲気ガスならび溶存ガスを変更して生成過程に関する研究を進める。これまでの濃度均一系の化学実験より、pHが0程度の極端な酸性条件が合成に重要だと考えているが、プラズマと液体の界面の局所的な高濃度領域のみでこのような低pH反応場が構築されていると考えており、そのような濃度勾配を持つ反応場に関する研究を進める。
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