研究課題/領域番号 |
18H01206
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
板垣 奈穂 九州大学, システム情報科学研究院, 教授 (60579100)
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研究分担者 |
白谷 正治 九州大学, システム情報科学研究院, 教授 (90206293)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | エキシトントランジスタ / ZION / 歪み量子井戸 / プラズマプロセス / ピエゾ電界 |
研究実績の概要 |
2019年度は,エキシトントランジスタの実現に向け,量子井戸の障壁層材料として新たに2元系混晶 (ZnO)x(AlN)1-x(以下ZAON)を作製するとともに,電界によるエキシトン輸送モデルについての検証を行なった.成果は以下の2点に集約される. 1) 新2元系混晶 ZAONの作製と紫外域でのバンドギャップ制御:2018年度までに,II-VI族であるZnOと,III-V族であるInNとの擬2元系混晶(ZnO)x (InN)x-1(以下ZION)の形成に成功している.ZIONの熱平衡下での形成は困難であったが,我々はラジカル制御スパッタリング法によりその作製に成功するとともに,可視光全域でのバンドギャップチューニングを実現し,バンド端起因の強いPL発光を確認した.2019年度は,InNと同じIII-V族材料であるAlNに着目し,これとZnOとの擬2元系混晶であるZAONを形成することで紫外域でのバンドギャップチューニングを試みた.深紫外域での発光/光吸収が実現すれば,近距離通信に対応したエキシトントランジスタや,深紫外発光ダイオードなどへの応用が可能となる.結果,3.4-6.2 eVの範囲で連続的にバンドギャップを制御することに成功した.このとき,バンドギャップはベガード則にほぼ従っており,ZAONの伝導帯底がZnと Alのs軌道から構成されている可能性が示された. 2) エキシトン輸送メカニズムの検証:エキシトンの輸送は,励起子の双極子エネルギーの勾配により行われる,というのが従来の説である.しかし,中性準粒子である励起子が,実際どのように電界から力を受け輸送されるのか,そのメカニズムは分かっていない.そこでデバイスシミュレーションを用いてエキシトン輸送モデルの検証を行なった.その結果,両極性拡散ならびに不均一電界中での双極子の並進運動が主な輸送機構である可能性が示された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,電子-正孔がクーロン相互作用で結合した準粒子「エキシトン(励起子)」をキャリアとするトランジスタを,新材料(ZnO)x(InN)1-x(以下ZION)により実現するとともに,エキシトンの輸送機構を解明することを目的としている. 現在までに,高精度フラック制御スパッタにより,ZnOテンプレート上ZION歪み量子井戸を実現するとともに,障壁層材料としてあらたに(ZnO)x(AlN)1-x(以下ZAON)を開発した.また,上述の歪み量子井戸をチャネルとしたエキシトントランジスタを試作し,ゲートへの光照射によるスイッチングに成功するとともに,デバイスシミュレーションによるエキシトン輸送メカニズムの検証を行い,両極性拡散ならびに不均一電界中での双極子の並進運動を主な輸送機構としたモデルの提案を行なっている.以上のことから,研究は順調に進展しているといえる.今後はZION結晶成長手法として新たに開発した2段階成長法を用いて高品質ZION量子井戸を形成し,高温・長寿命・高移動度のエキシトンを実現する.これによりエキシトントランジスタにおけるゲートへの電圧印加によるスイッチングの実現を目指す.また,新材料ZAONを障壁層としたピエゾ量子井戸の形成も試み,エキシトン輸送効率を最大化する量子井戸構造を獲得するとともに,エキシトンの輸送機構の解明を引き続き行なう.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,エキシトントランジスタにおいて,ゲートへの電圧印加によるスイッチングの実現を目指すとともに,中性準粒子であるエキシトンの電界による輸送メカニズムを引き続き検証する.以下に具体的な研究計画および目標を記す. 1. ZION/ZAON歪量子井戸を用いたエキシトントランジスタの作成:高精度フラックス制御スパッタを用いて単結晶ZnOテンプレート上にZION膜をコヒーレント成長させ,歪み量子井戸を形成する.これにより数MV/cmのピエゾ電界を井戸層に誘起し,電子と正孔の波動関数を空間的に分離することで,エキシトンの長寿命化を図る.また前年度開発した2段階成長法を用いることで,In-rich組成を有するZIONの単結晶成長を実現し,光通信波長域に対応した量子井戸の作製を行なう.さらに前年度に開発した新材料ZAONを障壁層としたピエゾ量子井戸の形成も試み,エキシトン輸送効率を最大化する量子井戸構造を獲得する.最終的にはこれらをチャネルとしたデバイス形成を行い,ゲートへの電圧印加によるエキシトン流スイッチングの実現を目指す. 2. エキシトン輸送モデルの検証:上述のように,エキシトンの輸送は,励起子の双極子エネルギーの勾配により行われる,というのが従来の説である.しかし,中性準粒子である励起子が,どのように電界から力を受け輸送されるのか,そのメカニズムは分かっていない.2019年度は,この不均一電界中での双極子の並進運動がエキシトンの主な輸送機構であるとの仮定のもと,デバイスシミュレーターを用いて,デバイス内における電界分布の計算を行なった.2020年度ではさらにエキシトンの拡散係数ならびに電界効果移動度を実験的に求め,これらの値を有効質量近似により求めたエキシトン移動度と比較検討することで,両極性拡散をベースとしたエキシトン輸送モデルの記述可能性を検証する.
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