研究課題/領域番号 |
18H01207
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
杤久保 文嘉 首都大学東京, システムデザイン研究科, 教授 (90244417)
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研究分担者 |
中川 雄介 首都大学東京, システムデザイン研究科, 助教 (80805391)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | プラズマ液体相互作用 / 液滴 / エレクトロスプレー / コロナ放電 / 誘電体バリア放電 / 放電数値解析 |
研究実績の概要 |
本研究は,(i)誘電体バリア放電へ液滴を導入した系,(ii)コロナ放電を伴うエレクトロスプレーの系,の2種の系において,実験とモデリング・数値解析からプラズマと液滴の相互作用の解明を目的とする。2018年度は,以下の成果を得た。 系(ii)における液滴の動的挙動の観測:液体を満たしたノズル電極に負極性高電圧を印加したとき,テイラーコーン形成に伴ってトリチェルパルス放電様の電流パルス群(各電流パルス幅:100 ns程度,パルス電流頻度:100kHz-1MHz,パルス群の周期:100 us程度)から構成されるコロナ放電が生じる。高速カメラでの観測により,液滴放出はテイラーコーン先端部の微小振動により,電流パルス群の最初の電流に伴ってのみ放出されること,液滴の帯電量はレイリー限界よりも低いために放出以降の分裂を伴わないこと,放出された液滴は5 m/s程度の速度で輸送されること,などが明らかになった。また,正極性高電圧を印加した場合はテイラーコーン先端の微小振動やコロナ放電は生じず,より微小な帯電液滴が放出されることが観測された。 モデリング・数値解析では,大気圧He中の平行平板型誘電体バリア放電を1次元流体モデルで表し,この中に微粒子を導入した際のプラズマと微粒子の相互作用について検証を行った。放電プラズマ中の微粒子は電子流とイオン流のバランスによって負に帯電するが,誘電体バリア放電中の電子密度は周期内で変化するために帯電量も大きく変化すること,僅かな微粒子導入も電子やイオンの消滅項となるために放電維持を困難とすること,などが示された。更に,液滴表面へ到達した荷電粒子やラジカルによるプラズマ誘起液滴内液相反応をモデル化する第一段階として,プラズマ中に置かれた単一液滴の帯電過程のモデルを,荷電粒子のドリフト・拡散流,液滴や空間電荷による電界歪みを考慮して構築した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2018年度の当初研究計画では,系(i)ついては,放電チャンバーや電極を設計・製作し,プラズマ-液滴相互作用の計測に適した安定なプラズマ源の実現を目標としていた。また,系(ii)については,放出される液滴挙動の観測に加え,レーザ誘起蛍光法によるOHラジカルの計測を挙げていた。系(i)については,放電用電源の購入,放電チャンバーの製作が遅れたために予定通り進行しておらず,これは2019年度の前半に進める計画を立てている。また,レーザ誘起蛍光法によるOHラジカル計測については,他の研究課題(Oラジカル,Nラジカルの計測)でも同レーザを利用していることに加え,レーザ制御用パソコンの不調もあり,当初予定通りに進行していない。これも2019年度中に進める予定である。 モデリング・数値解析に関する研究は予定通りに進行している。また,実験での遅れを最小限に留めるために,当初は2020年度に計画していた研究課題を先行して開始し,研究実績の概要でも記した通り,既に基盤となるモデル構築を行った。従って,本研究の終了年度までには,予定した研究を十分に遂行できるものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
実験:系(i)はチャンバー製作等の遅れにより,液滴を含む安定した誘電体バリア放電の形成に至っていないが,2019年度の早期にプラズマ-液滴相互作用の計測に適する安定したプラズマ生成を実現する。これを実現した上で,電圧電流特性等の電気的特性,発光分光等の光学的な特性などの詳細を調査する。更に,大気圧のみならず,0.1気圧程度の減圧環境下でも同様の実験を行う。系(ii)については,液滴の放出,動的挙動とコロナ放電形成との関係を調べ,一定の成果を得ている。しかし,印加電圧とその極性,液体の導電率・表面張力・粘性率などの様々なパラメータにも依存した状態の変化が推測されるため,様々な条件下において詳細な特性を調べる。更に,コロナ放電の発生頻度を制御することを目的として,大気圧のみならず,0.1気圧程度の減圧環境下でも同様の実験を行う。得られた実験結果を詳細に解析することで,プラズマ-液滴相互作用に関する新たな知見を得る。 モデリング・数値解析:系(i)に対しては空間一次元の流体近似モデルにより,誘電体バリア放電の数値解析を行う。既に,大気圧He中の誘電体バリア放電に固体微粒子を投入した場合の,放電構造に対する微粒子の影響を評価した。今後はこれを発展し,He/H2O混合ガス中での誘電体バリア放電に対して固体微粒子,及び,液滴を投入した場合の数値解析を行い,放電構造,及び,反応場の特徴を明らかにする。また,0.1気圧程度に減圧した場合の数値解析も実施する。更に,微視的な観点でのプラズマ-液滴相互作用を明らかにするために,陽光柱に相当する均一なプラズマ中に単一液滴を置いた際の液滴の帯電,液滴へのラジカルの拡散,及び,液滴中の化学反応を考慮した物理モデルを構築する。系(ii)に対しては,テイラーコーン形成過程,これに伴う電界計算を行い,帯電液滴放出に関する定量的な物理量に関する知見を得る。
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