研究課題
本研究では、低温プラズマとナノ粒子で修飾した触媒の相補的融合における気固界面反応場の基礎的特性を解明し、新規低温触媒反応場の具現化と同時に応用技術として低炭素水素社会への展開に向けた道筋を確立することを目標としている。今年度の研究では、ナノ秒パルスコロナ放電を用いた窒素固定における各種パラメータについて検討を行った。室温付近では高次酸化物であるN2O5や硝酸のみが検出された。反応温度450K以上ではN2O5や硝酸は検出されなくなると同時にN2Oの生成も抑制されNO2が主な生成物となる。酸素濃度が高いほどトータルの窒素固定量が増加することを明らかにした。これは、酸素濃度の増加によって酸化還元反応の平衡が酸化側にシフトするためであることを明らかにした。また、ガスコンバーターを導入することにより高次酸化物のサンプリングロスを抑制できることを明らかにした。また、初年度に開発した大口径プラズマキャンドルの基礎特性について検討を行った。ポーラスセラミックス板を用いる場合細孔経をパーセンミニマムより小さくすることで安定したプラズマキャンドルが生成できることを明らかにした。ノズル経10 mmの場合印加電圧が高くなるほどキャンドルの長さが短くなるが、ノズル経20 mmでは印加電圧に比例してキャンドルの長さが増加した。キャンドルの中の温度は8℃程度の上昇にとどまり非平衡状態のプラズマであることを示した。プラズマ触媒複合に関する基礎研究では、オゾンを用いたCOの常温酸化をモデル反応として各種触媒の性能評価を行った。その中で銀(Ag)とマンガン(Mn)の2成分触媒が極めて高い活性を示すことと、Ag:Mn比が1:4前後が最適であることを見出した。
2: おおむね順調に進展している
低炭素水素社会の実現に向けた具体的な二つの目的反応として、ハーバーボッシュ法に代わる新規中小規模の「アンモニア合成技術の確立」と温暖化ガスの削減と有効利用を狙った「CO2の資源化技術」の水素化反応を両軸とする。プラズマに適した触媒材料の開発は、本研究の重要な基盤要素である。ナノ材料で修飾した触媒表面と沿面で進展するストリーマの気固境界面で生じる相互作用は未開拓の研究分野ではあるものの、新規反応場としてのポテンシャルが極めて高い。今年度はこれまで検討例がなかった触媒層における負極性パルス放電プラズマの基礎特性を調べ、接地電極から陰極に向かって進展するプラズマモードを初めて観測できた。オゾン触媒によるCO除去では昨年報告したAg-Pdの合金のほかにAg-Mnの組み合わせ触媒が有効であることを明らかにした。このAg-Mn複合触媒は従来の熱触媒反応では活性が低く、オゾンを用いた常温酸化に特化した材料であることを明らかにした。本研究の当初に目標としていた、プラズマ触媒の相互作用の解明の基礎研究と、新規触媒開発といった実用的な面でも順調に研究成果得られており、今年度もこれを維持していきたい。昨年度開発して特許出願を行った大口径プラズマキャンドルについては基礎的な特性を調べ論文発表を行なった(掲載1報、投稿中1報)。具体的には、シュリーレン法、ICCDカメラによる可視化などでプラズマキャンドルの特徴を調べ、プラズマによるヘリウムガスの混合促進が可視化できた。リサージュ法により計測した入力電力とガス温度の相関を調べ、プラズマ電力が2W以下で小さいためキャンドルノズルから距離が離れてもガス温度には変化がないことを明らかにした。
最終年度(2020年)の研究では、プラズマ環境に適した触媒探索を継続して遂行すると同時にモデル反応を用いた活性評価をより広く展開しる。特に、最終年度では当初予定していたモデル反応の一つである二酸化炭素(CO2)の資源化に向けたプラズマ触媒の検討を始める。特に、ニッケル、ルテニウムなどの触媒によるCO2資源化のエネルギー効率、濃度、空時収率などの評価を行う。それに合わせて触媒の活性化におけるプラズマ印加の効果を解明するために、オペランド拡散反射型赤外分光法(DRIFT)を用いた表面反応の素過程の解明に取り組む。触媒表面のサフェースストリーマについては、韓国機械研究院(KIMM)の研究グループと連携しながら、シミュウレーションと実験による計測結果の比較を行う。CO酸化の反応では銀(Ag)とマンガン(Mn)の最適混合比などを明らかにする。大口径プラズマキャンドルについては、電極の構造と配置、ガスの種類などの基礎特性のデータ収集を進め、既存の小さい口径のジェットまたはアアレ化したプラズマジェットとの類似性・相違性について検討を行う。キャンドルの分光測定により電極からキャンドルを形成するまでのプラズマ特性の変化を追跡する予定である。また、ガスの種類(He, Ar, Ne, Xeなど)、印加電圧、シュリーレン法による気流の可視化などを行い、プラズマがキャンドルの形に与える影響(EHD効果)を明らかにする予定である。
すべて 2020 2019 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 5件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 4件、 招待講演 2件)
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