研究課題
星の進化とその最終段階である超新星爆発は,恒星内部のダイナミクスと非線型相互作用で結び ついた乱流の輸送に支配される.しかし,通常の乱流モデルは,混合距離理論に代表されるように,経験的にその場限りで与えられるものにとどまっている.本研究では,まず強非線型かつ非一様な乱流の理論 を星の進化を記述する方程式系に適用し,応力(運動量輸送),乱流質量流束,乱流熱流束などの乱流相関を解析した.その結果を用いて,経験的ではなく基礎方程式に基づいた乱流モデルの構築を行った.そこでは平均場と乱流統計量の非線型ダイナミクスを同時に解くことで,乱流輸送係数も含めて自己無撞着に場 が解かれる.これは,混合距離理論で,乱流輸送の大きさをパラメータとして与える従来の天体物理学での乱流モデルとは一線を画する.その知見をもとに,回転,密度変動,磁場などの印可パラメータを変えつつ,簡単形状の局所的シミュレー ションでモデルを検証・発展させている.さらに,その発展したモデルを用いて超新星の大域的シミュレーションを行う.直接数値計算と乱流モデル計算を比較することで,三次元の乱流効果を一次元の方程式に落とし込み,簡略化された超新星の標準モデルを開発する.現在,この三次元グローバル数値計算の結果と二次元のローカルシミュレーションの結果との比較を鋭意行っている.このように,(i)基礎方程式に基づく乱流モデルの開発; (ii)局所シミュレーションによる乱流モデルの検証と発展; (iii)発展した乱流モデルの大域的シミュレーション; (iv)低次元簡略化乱流モデルの開発;という研究段階のうち,(i)と(ii)まで,順調に進んでおり,その成果は幾つかの学術論文として公刊されている.
2: おおむね順調に進展している
研究段階の前半部分のそれぞれで進展が見られた.(i)基礎方程式に基づく乱流モデルの開発:密度・ 速度・温度などの非一様性,衝撃波,さらには回転や磁場など多くの時間スケールを扱う理論枠組で,乱流相関を評価し,乱流輸送の表式を求めた.(ii)局所シミュレーションによる乱流モデルの検証と発展:直接数値計算と乱流モデルの結果を比較し,モデルの妥当性を検証している.密度勾配,回転角速度の強さ,それらの幾何形状といったシミュレーションの設定を変えることで,個々の物理要素とその組み合わせがどのように対流の性質を変え,結果として熱輸送にどのような影響 を与え,それはどのような条件で起きるのかを調べている.それらの結果から,乱流輸送の表現にとって最も重要な時間スケールの評価について知見を得ている.例えば,乱流 の時間スケールの表現には,最も簡単な,乱流エネルギーK=<u’^2>/2と混合距離L;の組み合わせL K^(1/2) ,乱流エネルギーKとエネルギー散逸率εの組み合わせK/ε,といった類のものから,さらに他の 物理過程の時間スケールを組み合わせたものまで,さまざまな表現法が考えられる.また,(iii)発展した乱流モデルのグローバル・シミュレーションでは,直接数値計算を用いてレイノルズ応力の空間分布を調べた.その分布から,乱流モデルが不可欠な半径領域を同定することに成功した.これにより,乱流理論に基づく自己無撞着な乱流モデルを大域シミュレーションに適用する領域が明確となっている.
これまでの成果をもとに,研究段階の後半部分について研究を推進する.(iii)発展した乱流モデルのグローバル・シミュレーション: 上の段階までで発展させてきた乱流モデルを組み入れた大域的シミュレーションを行いつつある.特に,段階(ii)のローカル・シミュレーションで得られた知見を基に,大域シミュレーションの物理パラメータ を変化させ,どのような条件下で超新星爆発が起きるかを精査する.(iv)低次元簡略化乱流モデルの開発: ローカルとグローバルの両シミュレーションで,三次元の直接数値計算の結果と乱流モデルによる数値計算の比較を行い,二次元や一次元といったより低次元の計算でも乱流の効果を正しく取り入れることで超新星爆発を正しく再現できるように,簡略化した乱流モデルを開発する.シミュレーションに関しては,ローカル・シミュレーション,グローバル・シミュレーションともに, 基本的な幾何形状の設定はこれまでに研究してきたものと同じものを用いることができる.乱流の効果を表現する乱流モデルの部分は,上述した超新星爆発の乱流モデル部分を計算コードに組み入れる必要がある.シミュレーションから乱流モデルへのフィードバック,また三次元シミュレーション結果の低次元 簡易モデルへの落とし込みにあたっては,研究チーム内での頻繁かつ徹底的な議論が必要になると予想されるので,相互訪問するための旅費を十分確保する.研究チームの各人のこれまでの研究結果および資源や経験を基本的には利用可能なので,今回の組織で上述の研究段階を十分速やかに実行できると期待される.ただし,個々の段階(特にローカ ルおよびグローバル・シミュレーション)では,計算環境に加えて計算実行を補佐する人的資源も必要になるので,数値コードの開発もできる博士研究員を一定期間雇用するなどし,研究を強力に推進する.
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すべて 雑誌論文 (21件) (うち国際共著 21件、 査読あり 21件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 6件、 招待講演 2件)
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