研究課題/領域番号 |
18H01213
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
木内 建太 京都大学, 基礎物理学研究所, 特任准教授 (40514196)
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研究分担者 |
井岡 邦仁 京都大学, 基礎物理学研究所, 教授 (80402759)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 重力波 / 数値相対論 / 連星中性子星合体 / ブラックホールー中性子星合体 |
研究実績の概要 |
本年度は数値体相対論ーニュートリノ輻射磁気流体コードのアップグレードを行った。また、本格計算に向けた準備的シミュレーションを実行し、科学論文として発表した。具体的に行ったアップグレートとシミュレーションは以下の通りである。 テーブル型原子核密度状態方程式の低密度側への拡張:原子核理論に基づく原子核状態方程式は通常テーブル型データとして提供されるため、適用範囲がある。特に密度に関しては主に高密度領域に重点を置いているため、データとして提供されている下限値は10の5乗グラム毎立方センチメートル程度である。一方、連星中性子星合体イベントGW170817および電磁波対応天体AT2017gfoで実証されたようにコンパクト連星合体から放出される中性子過剰物質をシミュレーションによって定量的に調べることが非常に重要である。シミュレーション中で放出物質を精度良く追跡するためには、密度の低い周辺物質中での放出物質の伝搬を正確に解かなくてはならない。このためには上述の密度下限値では大きすぎることが指摘されている。そこでヘルムホルツ型状態方程式を本来の核密度状態方程式と結合し、密度下限値を0.1グラム毎立方センチメールに拡張した。この新たな状態方程式テーブルを数値コードに実装し、連星中性子星合体およびブラックホール―中性子星合体シミュレーションをテスト計算として実行し動作確認を行った。 アップグレードした数値コードを用いて、ブラックホール―降着円盤系の空間三次元シミュレーションを行った。ブラックホールと降着円盤の質量が同程度である場合、降着円盤はPapaloizou-Pringle不安定性に対して不安定となりえる。降着円盤のモデルを変えたシミュレーションを複数実行し、不安定性の結果放出される重力波がGW190521で報告されている重力波を再現することが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
低密度側への状態方程式の拡張と実装が成功したことで放出物質に関してシミュレーションデータの信頼性が飛躍的に増した。ブラックホールー降着円盤系のシミュレーションを実行し、科学的成果も創出できた。また、現在は数値コードのアップグレードと最適化が順調に進んでいる。以上の理由から、おおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
今後は連星中性子星合体の残存物中での大局的ダイナモ機構に焦点を当て、科学的シミュレーションを実行する。大局的ダイナモ機構と相対論的アウトフローの発生を調べるためには、物理時間にして約1秒程度のシミュレーションが必要である。これは従来の数値相対論シミュレーションと比べると遥かに長時間であり、数値粘性に起因するエラーや保存則の破れによるエラーが深刻な問題を引き起こすと考えられる。そこでまずバリオン質量および運動量保存精度が従来の方法に比べて飛躍的に改善する方法を実装する。具体的にはグリッドの配置をバーテックス中心からセル中心に切り替え、静的多層格子境界が一致するようにする。さらに境界面における数値流速に適切な補正を加えることで、バリオン質量保存が機械精度で保証されるRe-flux法を実装する。これにより運動量保存の精度も改善する。 さらに長時間シミュレーションに向けてより少ない数値粘性で衝撃波を捕獲する高解像度衝撃波ソルバーを実装する。具体的にはHLLC, HLLDと呼ばれる流体ソルバーを実装する。磁場を考えない場合、前者は接触不連続面を正確に追跡するため、中性子星表面付近を精度良く追えると期待される。また、後者は磁気流体で現れる7種の波のうち、5種を正確に扱うため、磁気流体を精度よく長時間シミュレーションできることが先行研究により報告されている。本研究課題である長時間シミュレーションにも適していると期待される。 現在、以上の二点のアップグレード及び富岳使用を念頭に置いたコードの最適化を迅速に進めている。本年度前半より科学的シミュレーションを実行する予定である。
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