研究課題/領域番号 |
18H01217
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
坂井 典佑 慶應義塾大学, 自然科学研究教育センター(日吉), 訪問教授 (80108448)
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研究分担者 |
新田 宗土 慶應義塾大学, 商学部(日吉), 教授 (60433736)
藤森 俊明 慶應義塾大学, 商学部(日吉), 助教 (60773398)
三角 樹弘 秋田大学, 理工学研究科, 講師 (80715152)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | リサージェンス / 非摂動効果 / 摂動論 / 場の量子論 / ソリトン / バイオン / 赤外リノマロン / カイラル磁性体 |
研究実績の概要 |
本研究では摂動級数と非摂動効果とを関係づけるリサージェンス理論に基づき、経路積分の積分領域を複素空間に拡張することで量子非摂動現象の新たな解析法(拡張型リサージェンス理論)を確立し、場の量子論の新たな非摂動的定式化を目指している。本年度は,(1)格子上に離散化した2次元CPN模型について、モンテカルロシミュレーションを行うことによって非摂動効果を研究し、リサージェンス現象を非摂動的に研究する、(2)RxS1上のZNツイストシュヴィンガー模型の解析してCPN模型で得られた知見を補完する、(3)1+1次元CP1模型にDzyaloshinskii-Moriya (DM)相互作用が加わったカイラル磁性の解析によって非一様真空を理解する、という3つの方向から研究を進めた. (1)ZNツイスト境界条件を課したRxS1上の2次元CPN模型の格子モンテカルロ計算を実行することで,ZN対称真空の連続性と分数インスタントン及びバイオンの寄与を調べた。その結果、コンパクト化半径を大きくしても相転移がないことと無矛盾であることを発見した。さらに,その真空構造を実現しているのがまさしくバイオン配位であることを確認した。 (2)コンパクト化された時空上でZN境界条件を課した2次元U(1)ゲージ理論とフェルミオンが相互作用する理論(シュヴィンガー模型)を分析し,ZN境界条件によりR2上での真空構造とRxS1上での真空構造がスムーズにつながること(真空の連続性)を確かめた。 (3)1+1次元では、CP1模型にDM相互作用が加わったカイラル磁性体の真空を分類し、相構造を決定することに成功した。さらにインスタントン解の構成を行い、バイオン解なども発見した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画策定時に想定していた場の量子論に対するリサージェンス理論の応用は期待通り進展している。2次元のCPNシグマ模型で繰り込みの効果も含めて、当初期待していた通り、非摂動効果と摂動級数の発散との間の関係を示すことができた。 2方向を非対称にコンパクト化した2次元CPN模型を格子上に定式化し,小さな半径の方向にZNツイスト境界条件を課して、モンテカルロシミュレーションを行い、R2時空との連続性と矛盾のない結果を得た。大域的なZN対称性のオーダーパラメターを工夫して、ZN対称性が破れていないことも確認した。今後はこうした格子計算を進めて、摂動領域から非摂動領域へのつながりをさらに考察する。 RxS1にコンパクト化して解析することで、シュヴィンガー模型(2次元U(1)ゲージ理論とフェルミオンが相互作用する理論)でも、真空構造がRの小さな領域と大きな領域でつながっていることが分かり、この現象(volume independence)の普遍性を確認できた。 CP1模型にDM相互作用を取り入れることで、非一様な真空状態が実現する可能性がある。1+1次元模型で相構造を完全に分類することに成功した。また、インスタントン解を数えつくすことにも成功した。その中には、CP1模型で非摂動効果を記述する際に重要な働きをしたバイオン解もあることを発見した。
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今後の研究の推進方策 |
2次元CPN模型については、コンパクト化半径が小さい場合に繰り込みまで含めた有意味な結果を得ているが,さらに半径を大きくしてノンコンパクトな2次元での非摂動効果の理解に到達することが今後の課題である.このための方法として、ラージN近似がひとつの有力な手掛かりとなると考えられる。この観点から、ラージN近似とバイオンで表される非摂動的寄与との関係を検討したい。非摂動的な効果を見るための物理量としては、相関関数やその極限として演算子席展開に現れるグルーオン凝縮などの非摂動的情報を考察することも有用である。 一方,モンテカルロシミュレーションを用いて弱結合以外の領域で非摂動効果を直接得ることができる。これによって、コンパクト化半径が小さい場合(弱結合)に得られる解析的結果と比較することができる。さらにこれを用いて、コンパクト化半径が小さい場合から半径が大きい場合(強結合)へ連続性があるかを調べる。 1+1次元だけでなく、1+2次元のカイラル磁性体の真空構造を考察したい。特に非一様な基底状態が現れ、その中には、スパイラル状態やスキルミオン格子状態があると思われる。これらの状態を理解することは、デバイスなどへの応用にもつながると期待される。
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