研究課題/領域番号 |
18H01219
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
後神 利志 京都大学, 理学研究科, 助教 (20750368)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | ラムダハイパー核 / バリオン間相互作用 / ストレンジネス核物理 / 電子散乱 / 高分解能磁気分光器 / トリチウム / 仮想光子 |
研究実績の概要 |
PH1実験 (トリチウム標的を使った nn-Λ三体系探索実験) の仮想光子をビームとして用いた際の生成断面積の結果をまとめ公表した。生成断面積を導出する際に系統誤差を最小限に抑えるため、イベント選定条件を検出アクセプタンスの中央に限ったことから統計量はカウントベースのスペクトラムと比較すると10%程度少ない。そのこともあり、nn-Λ三体系の信号と考えられる領域においける統計感度は 2.5 シグマ程度であり、明確に信号を確認出来たとは言えないがそれと同時に全く信号の兆候が無いとも言い難い非常に興味深い結果が導かれた。様々な理論模型で予想されるエネルギー準位と信号幅を仮定して nn-Λ の仮想光子ビームに対する生成断面積の上限値を導出した。これは、理論模型との比較から未知のΛ-中性子相互作用模型へ制約を課す事のできる重要な物理結果である。また、本結果は仮想光子ビームを用いた実験による nn-Λ 生成断面積に関する世界初の情報である。つまり、より感度の高い次世代実験の設計に関する極めて重要な知見となる。また、Λ 粒子の準自由生成領域のスペクトラム解析からΛ-中性子間相互作用に関する情報を終状態相互作用という形で得る解析を試みた。これにより、nn-Λの束縛~共鳴領域の信号探索とは異なるアプローチでΛ-中性子相互作用についての新しい知見を得ることにも成功した。本 PH1 実験の物理データ解析により国内外より 3 名の博士学生を輩出できたことも特筆に値する。 PH2 実験 (ヘリウム標的を用いいたハイパー水素3,4分光実験) については、特に技術的な内容を更新した実験プロポーザルを提出し、JLab の実験課題採択委員会により最高評価である「科学評価 A」として採択され、実験が施行されることが決定した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
PH1 実験 (トリチウム標的実験) の物理結果をまとめ上げ、フルペーパーとして公表できたため。また、本研究で得られたデータを異なる切り口から独立のデータ解析を行い、大学院生3名がその内容を論文としてまとめて博士号を取得した。つまり、本研究が目標通り若手育成にも大きく寄与したと言える。 PH2 実験 (ヘリウム標的実験) については JLab の課題採択委員会により最高評価で採択され実験の施行が決定した。これにより、実験研究のための詳細設計を本格的に始動することに成功した。
|
今後の研究の推進方策 |
PH1実験のデータ解析より nn-Λの生成断面積についての結果を得て論文として公表した。断面積の情報だけでなく、カウントベースのスペクトラム解析からより高感度で nn-Λ の信号探索に特化した解析が可能であるが、このカウントベースの結果についても論文としてまとめ公表を行う予定である。さらに、PH1 実験で取得したデータには、nn-Λ 探索のためのチャンネルのみでなく、ΛやΣの素過程生成反応やエータプライムの生成反応が含まれている。これらは過去の実験にはない運動学領域における新しいデータであり、今後これらのチャンネルに注目したデータ解析を進める。 PH2 実験 (ヘリウム標的実験) については、E12-19-002 実験として採択されたことで、JLab の研究者やエンジニアと共により詳細な実験設計を詰めていける環境が整った。Geant4 を用いたより詳細な実験シミュレーションも並行して行い、実験設計をより具体的な形に落とし込む。これらの評価と設計について、正式なビームタイムリクエストとして文章としてまとめたものを JLab へ提出し、実験研究を遂行するための最後のレビュープロセスへの準備を整える。
|