研究課題/領域番号 |
18H01221
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
菊永 英寿 東北大学, 電子光理学研究センター, 准教授 (00435645)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 半減期測定 / 壊変定数 / 微量分析 / 核化学 / 核異性体 |
研究実績の概要 |
体内の微量必須元素のように極微量でも大きな影響を与える事例は枚挙にいとまがなく,その存在状態(化学状態)を知ることは機能や性質の理解に重要である。しかしながら,極微量(トレーサー量)の試料に対しては,吸収や回折などを用いる通常の分光学的方法で構造情報を得ることはできない。そこで本研究では,電子捕獲(EC)過程や内部転換(IC)過程による原子核半減期が原子核位置の電子密度に依存することを利用して,トレーサー量物質の化学状態に関する情報を得ることを目的とする。 本年度はEC壊変核種であるCr-48(半減期22時間)の半減期変化を測定するために,Cr-48の製造および化学分離方の検討を行った。Cr-48はTi-46(α,2n)反応で製造できるが,ターゲットのTiからトレーサー量のCrを分離する必要がある。そこで,まず比較的長半減期のCr-51(半減期27.7日)を用いて分離テストを行った。天然同位体比のTi(Ti-nat)を東北大学AVFサイクロトロンでα照射し,Ti-nat(α,xn)反応でCr-51を製造した。これを用いて化学分離法の検討を行ったところ,担体無添加で80%以上の収率でCrが得られることが分かった。わずかにTiの混入が見られるためもう少し化学分離方の改良は必要である。また,Cr安定同位体を担体として加え,更に精製することで,半減期測定に用いるための試料が調製できることを確認した。 本年度はそれに加え効率良く半減期測定を行うために,半減期測定装置を増設した。本装置は高純度Ge 半導体検出器(HPGe 検出器),オートサンプルチェンジャー,フラッシュADC ベースのマルチチャンネルアナライザ,ルビジウム周波数標準等で構成されている。現在は本装置と既存の半減期測定装置との性能比較を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
半減期データを測定するための装置は準備できている。本研究では加速器を用いてRIを製造し,その半減期を精密測定する必要がある。加速器を用いたRI製造は機会に限りがあるため,一回の実験でできるだけ多くのデータを取ることが重要である。本助成により半減期測定装置の増設ができたため,一回の実験で効率良くデータを取得できる見込みである。 また,目的核種の製造も順調に進んでいる。Ti-46(α,2n)反応でCr-48を精製して,化学分離法を検討した。これまでトレーサー量のCrをTiから分離・精製した場合,目的のCrに多くのTiが含まれていた。そこで化学分離法を一から再検討した結果,Tiの混入を大幅に減らすことができた。無担体のCr同位体を得るにはもう少し分離の改良が必要であるが,Cr安定同位体を担体として加え,更に精製することで,半減期測定に用いるための試料が調製できることを確認した。以上からCr-48の半減期を測定する目処は付いたと考えられる。 以上より,本年度の進歩状況としてはおおむね順調である。本研究課題ではMn-52,Cr-48,Tc-99mの半減期を対象に実験を行う。Cr-48は上記のように実験可能な状態である。Tc-99mの半減期変化測定は購入RIを利用できるため,加速器メンテナンス期間にもデータを取得できる。よって,来年度にはこの2核種の実験データを順次取得できる状態となっている。
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今後の研究の推進方策 |
新しく作成した半減期装置と既存の半減期測定装置との性能比較を行って,問題無ければTc-99mおよびCr-52の化学状態を変化させて半減期を精密測定する予定である。加速器利用時はCr-52の実験を行い,加速器メンテナンス時はTc-99mの実験を行う。 また,原子核近傍の電子状態を推測するために量子化学計算の検討を進める。量子化学計算は3種類のソフトウェアを使用する予定である。得られた結果と半減期測定の結果を比較しながら,計算条件および実験条件を改善していく。 さらにMn-52の製造条件および化学分離条件の検討を行う。Mn-52はサイクロトロンを用いたCr-52(p,n)反応,および電子ライナックを用いたFe-54(γ,2n)Fe-52→Mn-52反応で製造できる。今後これらの反応でRIを製造し,半減期測定可能な実験条件を見つけていく。
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