研究実績の概要 |
体内の微量必須元素のように極微量でも大きな影響を与える事例は枚挙にいとまがなく,その存在状態(化学状態)を知ることは機能や性質の理解に重要である。しかしながら,極微量(トレーサー量)の試料に対しては,吸収や回折などを用いる通常の分光学的方法で構造情報を得ることはできない。そこで本研究では,電子捕獲(EC)過程や内部転換(IC)過程による原子核半減期が原子核位置の電子密度に依存することを利用して,トレーサー量物質の化学状態に関する情報を得ることを目的とする。 本年度はテクネチウム-99m(半減期6時間),クロム-48(半減期22時間),マンガン-52g(半減期5.6日)の半減期測定を行った。Tc-99mは購入,Cr-48は天然同位体比のチタンをターゲットとして用いたTi-nat(α,xn)反応およびクロムの濃縮同位体を用いたCr-50(γ,2n)反応で製造,Mn-52gは天然同位体比のバナジウムを用いたV-51(α,3n)反応で製造した。照射したターゲットは前年度までに開発した化学分離法を用いて精製して,化学状態を調整して半減期測定を行った。特にTc-99mについては条件を細かく変えて測定し,環境による半減期変化を詳細に調べた。これらの結果を量子化学計算の結果と比較して,半減期と関係する核位置の電子密度との関係を調べた。まだ,計算条件についてさらなる検討が必要ではあるが,現状でどの程度化学状態による半減期変化を量子化学計算が再現できるかについての知見を得ることができた。
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