本研究の目的は、低速中性子ビームと原子ガスの散乱角分布を精密に測定し、既知の散乱過程による分布からのずれを評価することで、結合の弱い新しい相互作用とその媒介粒子を探索することである。科学研究費・若手 B(平成 25 年度より) の助成による実験の成果を発展させ、基盤的研究として推進していくことを目的とする。本研究期間内においては、フランス・ILL 研究所 (Institut Laue-Langevin) において実験セットアップを組み上げ、ナノメートルスケールにおける新しい相互作用について、現在の世界最高の探索感度より約 1 桁の感度改善を目標とする。また、開発した実験セットアップを ILL 研究所の PF2-VCN の極冷中性子ビームラインにインストールし、系統誤差の抑制と数十ナノメートルスケールにおける新物理の探索の可能性について研究する。
本研究期間内に、ILLの物性用冷中性子ビームラインにおいて計測した実験データーを基にして、到達距離を持つような未知短距離についての制限を求めた。解析に使える実験データは、ビームライントラブルのため当初想定していたものよりも少いものではあったが、最もシンプルなモデルである湯川型の未知短距離力に対し探索したところ、1 nm のオーダーにおいて世界最高の探索感度を確認することができた。本到達感度までにおいて、質量に結合するような重力に準ずる新物理の兆候は見えていない。また、素粒子の大統一理論においてレプトン数とバリオン数に混ざりが期待されるが、その影響の、低エネルギー極限への表われとして、エキゾチックな保存電荷に対する制限をつけることができた。結果は、第14回の Asia-Pacific Physics Conference (APPC19) において報告した。その結果は、査読付きのプロシーディングスとして出版された。
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