研究課題/領域番号 |
18H01228
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
高橋 覚 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 特命助教 (40402432)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ガンマ線 / 偏光 / 気球実験 / 原子核乾板 / 多段シフター |
研究実績の概要 |
2018年気球実験において、既知の明るいガンマ線源(Velaパルサー)を観測し、エマルションガンマ線望遠鏡の総合的な性能実証を目指す。そのために様々な開発・改良・準備をおこない、2018年気球実験を無事に成し遂げた(JAXA豪州大気球実験、口径面積3780c㎡、飛翔時間17.4時間)。2015年気球実験に比べ同程度の実験規模(口径面積や飛翔時間)で、有効面積や有効時間の拡大およびバックグラウンドの低減について計5倍の改善を実現した。フライトデータ解析を精力的に進め、世界最高解像度でのVelaパルサーの撮像を達成し、世界最高角度分解能のガンマ線望遠鏡が確立する。また大気ガンマ線物理や検出器全体に降り注ぐハドロンシャワー探索を展開している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年気球実験フライトデータ解析を進めた。データ処理を飛躍的に進め、ほぼ一通りのデータ処理をこれまでに完了させた。特に、これまでに部分的に確立してきた時刻付与初期処理に対してさらなる改良およびデータ処理を飛躍的に進め、そしてそれに追従させるように各コンポーネントの統合処理を果たした。統合データについて、ガンマ線時刻付与における高い信頼性およびガンマ線到来方向決定精度に対する十分な時間分解能、そして姿勢情報付与における高いガンマ線到来方向決定率の達成を実際のガンマ線データで実証した。それらに基づきガンマ線到来方向を天球座標に再構成した。そしてVelaパルサーの位置に対応して有意なガンマ線信号を検出し、その像広がりとして半径1度程度(80MeV以上)を得ている。現在、さらにガンマ線統計数の増大や背景事象の低減を着実に進めており、2018年気球実験の最終結果となる成果を得つつある。 また、検出器コントロールサンプルとして大気ガンマ線を実測している。特に大気ガンマ線東西効果をエマルションガンマ線望遠鏡において初めて検出し、世界的にも独自のデータが得られている。検出器の理解とともに、大気ニュートリノフラックス計算シミュレーションとの比較をはじめとする大気ガンマ線物理を展開し始めている。 また、検出器全体に降り注ぐようなハドロンシャワーの探索を進めている。これは検出器全体にわたる校正用線源になり得るほか、荷電粒子との同期による大気ガンマ線識別の可能性も出てきている。現在、偶発予測に対して有意なハドロンシャワー事象の検出を達成しており、検出器全体の校正や大気ガンマ線識別の研究を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
気球に搭載できる重量は最大で2トン程度であり、大口径面積(~10㎡)を実現する上でエマルションフィルム以外の重量を極力抑えることが重要となる。エマルションフィルム積層ガンマ線コンバーターを口径面積10㎡まで並べると重量は1トン程度となる。2018年気球実験に導入した時刻付与多段シフターを口径面積10㎡まで並べると1.7トン程度となり、この時点で合計重量(2.7トン)が搭載可能重量(2トン)を大きく上回ってしまう。したがって大口径面積を実現する上で多段シフターの大幅な軽量化が鍵となる。また、2018年気球実験では15時間近くの水平浮遊(高度35-38km)であったが、~日スケールのフライトを目指すうえで、長時間化の実現も必要となってくる。従来のステージ駆動型からローラー駆動型にすることによって、大幅な軽量化が図れ、大口径面積を実現できる。また段間距離(飛跡外挿距離)を詰められ且つ段数を増やすことができ、長時間・高時間分解能を実現できる。従来の多段シフター開発と同様に三鷹光器社との共同開発によって、これまでに新型多段シフター試作機(単段)を製作し、動作・性能試験を進めてきた。それらに基づいて新型多段シフター試作機(5段+固定段)を製作し、動作・性能試験を進めてきた。そして、さらにコンパクトで軽量な新型多段シフターフライトモデル初号機を製作した。従来のステージ駆動型に比べ、口径面積あたりの重量にして約3分の1となる大幅な軽量化を達成しており、大口径面積実現の見通しが立ってきた。フライトモデルの動作・性能試験や環境試験を進め、フライトモデルの確立を目指す。そして量産を実現させ、2021年に予定している気球実験への導入を目指す。
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備考 |
令和元年度神戸大学優秀若手研究者賞を受賞
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