研究課題/領域番号 |
18H01230
|
研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
吉村 浩司 岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 教授 (50272464)
|
研究分担者 |
笠松 良崇 大阪大学, 理学研究科, 講師 (70435593)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 実験核物理 / トリウム / 放射光X線 / 核共鳴散乱 / 周波数標準 / 原子核時計 / APD / 物理定数の時間変化 |
研究実績の概要 |
本研究では,これまでに核共鳴散乱を用いてトリウム229の第一励起状態(アイソマー状態)を能動的に生成する手法を確立した。2019年度は,生成されたアイソマーからの真空紫外光を観測するための装置および真空紫外光に対して透過性のあるトリウムをドープした光学結晶を開発して,アイソマー状態からの真空紫外光の探索実験を行った。 【真空紫外光観測装置の開発】真空紫外光を低バックグランドで観測する検出器として,光電子増倍管を-30度まで冷却できるシステムを開発し,ノイズを極限(0.01 カウント/秒)まで抑制することに成功した。また,トリウム標的からの真空紫外光を集光して検出器に導くための光学系を開発した。経路の途中に特定の波長の光のみを透過させるバンドパスフィルターを複数使用して,観測光の波長を弁別する機構を開発した。 【真空紫外光を透過する標的試料の開発】真空紫外光に対して透過性のある標的試料として,ウィーン工科大学と共同で光学結晶(トリウムをドープしたフッ化カルシウムCaF2)を開発し,真空紫外光に対する透過率,X線による放射線損傷を詳細に測定した。 【標的試料の加熱装置の開発】光学結晶(CaF2)はX線を照射すると,紫外光領域に蛍光を発して大きなバックグランドになることが判明した。この蛍光の発生を抑制し,かつ素早く減衰させるため,結晶を160度程度の高温にすることが有効であることを確認し,X線照射中および測定中に結晶を加熱するシステムの開発を行った。 【真空紫外光の探索】以上開発した実験装置および標的試料を用いて,SPring-8において実験を行った。核共鳴散乱を用いた手法により,トリウムアイソマー状態を生成し,その脱励起により放出される真空紫外光を探索して,取得したデータを解析した。これまでのところ信号の兆候は観測されていない。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度に高精度なX線モニターシステム(ボンド法)を導入することにより能動的なアイソマー状態の生成方法が予定より早くに確立できたことにより,2019年度から本格的な真空紫外光の探索を行うことが可能となっている。 真空紫外光の観測装置の開発については順調に進み,PMTの冷却システムの開発に成功し,目標となるバックグラントレベルを達成することができた。 また,真空紫外光の観測のためのトリウムをドープした光学結晶もウィーン工科大学から良質なものが提供されている。これまでの観測結果では,現在のドープレベルの結晶では真空紫外光が困難であることがわかった。今後さらに高濃度(100倍程度)のトリウムをドープした結晶を開発して観測を目指すことになる。 一方,光学結晶CaF2をX線照射した際の紫外光蛍光が主要なバックグランドであることがわかってきた。バックグランドを抑制するために,標的移動機構,標的加熱システム,蛍光を観測して除去するための新たな検出器,等が必要となったため,その開発に時間を要したが,現在真空紫外光探索を行うことが可能となっている。
|
今後の研究の推進方策 |
2020年度は,前年度に引き続き,観測に成功した第二励起状態の核共鳴散乱を用いて,能動的励起で得られたアイソマー状態からの真空紫外光の観測に注力する。 【真空紫外光観測装置の改良】前年度に開発した脱励起真空紫外光観測装置の検出効率を詳細に評価する。その結果をもとに,真空紫外光を検出器に導く光学系の改良を施し,特に問題になっている光学結晶から真空紫外光を取り出す方法について,その検出効率をあげるような改良を施す。 【高性能光学結晶の開発・性能評価】ウィーン工科大学の協力により,トリウム229のドープ密度を100倍程度あげた,CaF2光学結晶を製作する。また,カルフォルニア大学ロスアンゼルス校(UCLA)の協力により,トリウム229をドープした新たな光学結晶LiSAFを導入して,その性能(透過率,放射線耐性)を評価する。 【真空紫外光分光の観測】改良した観測装置と光学結晶を用いてSPring-8においてX線照射実験を行い,真空紫外光の観測を行う。観測に成功した場合には,バンドパスフィルターによる波長の識別と,アイソマー状態の寿命測定を行う。
|