本研究では,これまでに核共鳴散乱を用いてトリウム229の第一励起状態(アイソマー状態)を能動的に生成する手法を確立した。2020年度は,生成されたアイソマーからの真空紫外光を観測するための装置の改良をおこなうとともに、トリウムのドープ量を従来の50倍に増やした光学結晶を開発して,アイソマー状態からの真空紫外光の探索実験を行った。 【真空紫外光観測装置の改良】トリウム標的からの真空紫外光を集光して検出器に導くための光学系の改良を行った。バックグランドとなる紫外光を除去するために、従来は信号領域の波長の光のみを透過させる透過型のバンドパスフィルターを用いていたが,今回は反射型の波長弁別型ミラー(ダイクロイックミラー)を複数配置することにより、紫外光バックグランド除去率を向上させた。また、トリウム229の放射線によるバックグランドを除去するためのVETOカウンターを改良し、放射線起因のバックグランドをほぼ完全に除去することに成功した。 【真空紫外光を透過する標的試料の開発およびテスト】真空紫外光に対して透過性のある標的試料として,ウィーン工科大学と共同でトリウムのドープ量を従来の50倍に増やした光学結晶(フッ化カルシウムCaF2)を開発し、その真空紫外光領域での透過率を測定し、X線照射による放射線損傷をテストした。 【真空紫外光の探索】以上開発した実験装置および標的試料を用いて,SPring-8において実験を行った。 核共鳴散乱を用いた能動的アイソマー生成手法により,光学結晶中のトリウムをアイソマー状態に遷移させて、その脱励起により放出される真空紫外光を探索した。今回の改良により、蛍光バックグランドを抑えつつ、信号に対する感度を50倍以上向上させたデータを取得した。現在、データ解析を行っているが、これまでのところ信号の兆候は観測されていない。
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