研究課題/領域番号 |
18H01234
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
田中 雅士 早稲田大学, 理工学術院, 准教授(任期付) (30545497)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 暗黒物質 / 液体アルゴン / MPPC / SiPM |
研究実績の概要 |
暗黒物質の直接検出は現在の素粒子・宇宙物理学の最大の課題のひとつであり、WIMP(Weekly Interactive Massive Particles)モデルに基づき世界中の多くのグ ループが探索実験を行っている。中でも質量~10GeVc 2 、断面積~10 -41 cm 2 付近では、発見を主張する実験(DAMA、GoGeNT等)と棄却する実験(XENON等)が混在し大きな注目を集めている(DAMA領域)。本研究の目的は、液体アルゴン(Ar)を標的とした検出器によりDAMA領域を探索することにある。 液体 Ar は液体窒素より少し高い沸点 87K を持ち、密度 1.4 g/cm 3 の無色透明の液体である。Ar は大気中において窒素・酸素に次いで 3 番目に多く含まれる気体であり比較的安価なため検出器の大型化に有利である。液体 Ar 検出器の顕著な特徴としては荷電粒子の通過により“シンチレーション光”と“電離電子”の2種類の信号が生成されることにある。二つの信号を組み合わせることにより液体 Ar 検出器は非常に強力な粒子識別能力を持ち、暗黒物質による信号事象と背景事象(主にβ線)の分離が可能となる。この分離性能はArシンチレーション光(波長 128 nmの真空紫外光)の検出効率に大きく依存するため、本研究ではその向上に取り組んだ。 2019年度は従来の光電子増倍管(約30%)より優れた光検出効率を持つシリコン光検出素子(MPPC、約50%)を用いた小型プロトタイプ液体Ar検出器を製作し、2020年1月に行ったテスト実験において、従来よりも2倍近く向上した世界最高のシンチレーション光検出効率(約20 光電子/keV)の達成に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
波長128nmの真空紫外光であるArシンチレーション光に直接感度を持ち、しかも液体Ar温度で駆動可能な光検出素子は非常に限られている。そのため、まず波長変換剤を用いて可視光に変換する必要がある。今年度はこの変換手法の最適化を行った。 波長変換剤としてはTPB(Tetra-N-phenylbenzidine)を採用し、128nm光を420nmに変換する。新たに開発した真空蒸着装置により蒸着手法の再現性を高め、蒸着条件を変化させながら最も変換効率の高くなる条件を決定した。 従来の光電子増倍管より高い光検出効率をもつシリコン光検出器(MPPC)を用いた小型プロトタイプ検出器により従来よりも2倍近く向上した世界最高のシンチレーション光検出効率(約20 光電子/keV)の達成に成功した。
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今後の研究の推進方策 |
暗黒物質探索の基礎開発は完了し、2020年度は探索実験のための本検出器を製作し早稲田大学地上の実験室においてデータ取得を行い暗黒物質探索実験を行う。探索にあたってはガンマ線や中性子を遮蔽するためのシールドを構築することにより背景事象を削減する。取得データを解析し、物理結果を国際学会及び学術論文に公表する。
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