研究課題
身近な雷のなかで、電場により電子が高エネルギーに加速されて10 MeVを超える制動放射線を放つ。こうした単純な描像に加えて、そうした制動放射線が光核反応という原子核を破壊する反応を引き起こしていることが2017年にわれわれが柏崎刈羽原子力発電所構内で行なった観測から明らかになった。驚くべきことに、光核反応の結果、中性子や陽電子、放射性同位体も発生していたことがわかった。しかし、光核反応がどのような雷で起きるのか、光核反応で生じた中性子や陽電子などの副産物は時間的・空間的にどのような進展をするのかについては、まだ詳細はわかっていない。雷が引き起こす光核反応、及びそれに付随した現象をより理解するためには、数多くの雷を見なければならない。そのためには、多地点に装置を設置することが有効である。そこで今年度、柏崎刈羽原子力発電所や石川県金沢市の大学や高校など合計23ヶ所に開発した小型放射線検出器を備えた。また、夏の雷が多発する時期には、スカイツリー(東京)にも検出器を設置した。観測の結果、数例の高エネルギー放射線事象を得ることに成功し、それらが光核反応に由来するものかどうか、解析を進めた。また、能登半島で行われた誘雷実験にも参加し、人工的に引き起こした雷でも光核反応が発生しているのかどうかを検証した。今回は雷が誘発されることはなかったが、現地の自然放射線バックグラウンドや装置の改善点を把握できた。上記の観測に加えて、光核反応事象が過去の観測データの中にあるかどうかを調べた。その結果、2017年と2018年に得られたイベントの中に、光核反応の兆候を示すデータがあった。両者では、継続時間1ミリ秒以下の強烈な下向きガンマ線フラッシュが重要な役割を果たすことがわかった。両事象をそれぞれ1本の論文として共同研究者らとまとめて、査読付き学術雑誌に投稿した。
2: おおむね順調に進展している
光核反応に由来する事象を初めて実証した際には、BGOシンチレーション検出器により、主に信号を捉えたが、今年度はCsIシンチレーション検出器や、中性子及びガンマ線弁別検出器(EJ-270)をも用いて観測を実施した。こうした体制が構築できたことにより、来年度以降、数多くの光核反応事象を捉えられる可能性がある。残念ながら、今年度得られた高エネルギー現象の事象数は例年と比べると少ないものであった。これは装置の問題ではなく、気候的な変動が原因と考えている。特に金沢では例年になく雷が少なく、地元でも大きな話題になっていた。自然現象が相手であるため、こうした特異な年があることは予測しており、そうした年には、これまで得られた膨大なデータの中から光核反応事象を探査していく。
光核反応により生成された中性子そのものを観測したという例はいまだ得られていない。そのため生じた中性子の量やそのエネルギースペクトルには大きな不確定性が残ったままである。また、中性子のエネルギーが測ることができれば、光核反応以外の反応、たとえば大気中の重陽子同士の衝突で中性子が作られているのかどうかを決定することができる。光核反応で発生した中性子は、大気中で散乱を繰り返しエネルギーを失っていく。その結果、最終的には窒素や酸素などに捕獲される。その結果、即発ガンマ線が放射される。即発ガンマ線のエネルギーを詳細に測ることにより、即発ガンマ線がどのような原子核に捕獲されたのかがわかり、即発ガンマ線の発生場所を特定することができる。したがって、エネルギー分解能の良い検出器を設置を今後、推進していく。加えて、突発的な自然現象を相手にしているため、できるだけ多地点に検出器を備える必要がある。しかし、検出器が多数になるため、事象を自動的に選択できるような仕組みについても検討していく。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 7件、 招待講演 2件) 図書 (1件) 備考 (1件)
Geophysical Research Letters
巻: 45 ページ: 5700~5707
10.1029/2018GL077784
Proceedings of XVI International Conference on Atmospheric Electricity
巻: - ページ: 1-13
https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/press/2018/5907/