研究課題
本研究で目標とする検出実験を実現するためには,4つの主要課題が存在する。これまで,その解決をはかってきた。主要課題とは,(A) 鉄の磁性がTES(超伝導転移端センサー)の超伝導特性を阻害するので対策が必要,(B) 従来の金に比べて鉄は比熱が大きいため,最適設計が必要,(C) 鉄は熱伝導度が低い可能性があり,信号波形のアクシオン吸収位置依存性によりエネルギー分解能悪化の可能性があり,最適設計が必要,(D ) 57Feは大変高価なため,収率の高い鉄吸収体形成のマイクロプロセスが必要,である。 昨年度までに,収率の高い電析(Dの解決)で製作した鉄薄膜の極低温での物性を評価し,それを用いた検出器の熱シミュレーションにより(A)-(C)の課題を解決するマイクロカロリメータの基本概念を得た。本年度は,この概念を実現するマイクロカロリメータの製作プロセス設計を行い,それに従ってJAXA宇宙科学研究所等の設備を用いてインハウスで素子を試作した。この素子を100mKの極低温に冷却し,またアクシオンの代替としてX線を用いて,TES型マイクロカロリメータの基本的な動作を確認した。また,64ピクセルのアレイ型のマイクロカロリメータ素子を念頭に,アレイ素子からの信号を読み出すための超伝導を用いた極低温フロントエンド電子回路の試作もすすめた。この極低温フロントエンド回路は,産業技術総合研究所に協力してもらい,同研究所のCRAVITY設備を用いて製作した。この極低温フロントエンド回路についても,極低温での所定の動作を確認した。
2: おおむね順調に進展している
本研究で解決が必要な4つの課題を解決できる可能性の高いTES型マイクロカロリメータの設計解を,実験とシミュレーションにより得た。さらに,その設計解に基づいた実際にTES型マイクロカロリメータ素子を試作し,その基本動作を確認するところまで研究をすすめた。この試作素子については,より詳細な評価が必要であるが,磁性体である鉄を超伝導転移端センサー(TES)の直近に設置し,TESを正常に動作させる,という,これまで誰も試みたことのない大きな課題に対して,一定の解が得られたと考えている。加えて,アレイ化した素子を読み出すための,極低温回路の試作もすすめている。以上から,研究は全体として,概ね順調に進んでいるといえる。
TES型マイクロカロリメータ素子のより詳細な評価をすすめるととに,素子をアレイ化する設計検討を行う。アレイ化したマイクロカロリメータ素子と,それ用の極低温フロントエンド回路と組み合わせた検出器ヘッドを製作する。これを極低温で動作させようとすると,現状の研究室の希釈冷凍機では極低温と室温を結ぶ配線を敷設しなおすことが必要になる。この実験環境整備を課題として認識し,適切かつ現実的な解決をめざす。
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JOURNAL OF LOW TEMPERATURE PHYSICS
巻: 199 ページ: 654 662
10.1007/s10909-019-02257-9
Journal of Cosmology and Astroparticle Physics
巻: 2020 ページ: 02 11
10.1088/1475-7516/2020/02/011