研究課題/領域番号 |
18H01248
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
松永 典之 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (80580208)
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研究分担者 |
辻本 拓司 国立天文台, JASMINEプロジェクト, 助教 (10270456)
小林 尚人 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (50280566)
河北 秀世 京都産業大学, 理学部, 教授 (70356129)
馬場 淳一 国立天文台, JASMINEプロジェクト, 特任研究員 (90569914)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 脈動変光星 / 天の川銀河 / 恒星化学組成 / 高分散分光観測 / 渦巻き腕 |
研究実績の概要 |
本研究では、セファイドなどの脈動変光星をトレーサとして、銀河系円盤にある恒星の化学組成がどのように変化してきたかを探る。ターゲットの天体は、すでに金属量が知られている天体と、今後自分たちの観測によって金属量を測定する天体の2グループのセファイドである。前者については、Gaia衛星第2期カタログ(Gaia DR2)による位置・固有運動を用いて銀河系円盤中におけるセファイドの移動などを調査する。後者については、我々の開発したWINERED赤外線分光器のデータを用いてセファイドの化学組成を測定する手法を確立する。 特に、あまり応用が進んでいない赤外線域での高分散分光観測とそのデータ解析の基本的な手法・情報を整備することが大きな目標の一つである。今年度出版した論文のひとつでは、亜鉛とそれより重い元素によって現れる吸収線(9種類の元素からの23本の吸収線)を同定した(Matsunaga et al. 2020, ApJS, 246, 10)。これらの元素は中性子捕獲過程で生じる元素であり、セファイドでそれらの元素の組成を測定できるようになれば銀河系円盤の化学進化にそのような過程が与える影響を調べることができる。また、2019年5月には、イタリアのローマ大学に滞在し、共同研究者のGiuseppe Bono博士ら数名とWINEREDのデータ解析と今後の観測についての議論を進めた。 Gaia DR2を用いた研究としては、セファイドではないが、色等級図上で選んだ1Gyr程度の年齢と考えられる星の分布について調査を行った(Miyachi et al. 2019, ApJ, 882, 48)。それらの星は太陽系近傍に存在する渦状腕(Local Arm)をトレースするものと考えられるが、星形成領域(星間ガスを代表)でトレースされた腕の向きと異なっていて、ガスと恒星の渦状腕の構造が異なることを示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
WINERED分光器のマゼラン望遠鏡への設置については進捗がやや遅れている。本研究の開始時点では、WINERED分光器はチリ・ラシラ天文台にあった(2017年と2018年に口径3.58mのNTT望遠鏡で観測)。ラシラ天文台は欧州南天天文台(ESO)の観測所の一つであるが、ラスカンパナス天文台から道のり50㎞程度の距離にある。元の計画では、ラシラ天文台から直接ラスカンパナス天文台へ輸送する予定であったが、一度日本に戻して、あらためてチリへ輸送する必要のあることが分かった。そこで、ラスカンパナス天文台での設置や観測について、先方と協議を続けながら、ラシラ天文台から日本、日本からラスカンパナス天文台への輸送を進めることとした。この輸送を行うのにあたっても、様々な制約があって時間がかかってしまったが、3月にWINERED分光器の大部分がラスカンパナス天文台に到着した。ところが、新型コロナウイルス(COVID-19)による混乱により、チリへの出張をキャンセルせざるを得ず、2020年3月に予定していた設置作業を計画通り行うことが出来なかった。 「実績」の欄に記した中性子捕獲元素の吸収線の同定など、すでに得たWINEREDデータを用いた研究についてはおおむね順調に進んでいる。また、今後の観測についての検討も共同研究者らと進めている。
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今後の研究の推進方策 |
WINERED分光器のマゼラン望遠鏡への設置については、チリへの出張が可能となったタイミングで現地で行う予定である。また、今後の観測の検討を共同研究者らと進める他、過去の観測ですでに得ていたWINEREDの観測データのうち本研究と関連するものを用いて共同研究を行う。 一方、WINERED分光器以外の装置(例えば、米国IRTF望遠鏡のiSHELL分光器)を用いて、本研究に関わる観測を行って共同研究を進めるための観測提案もすでに提出し、今後さらに観測データを収集する努力を続ける。WINERED分光器と比べて、観測できる天体の範囲やデータの質が制限されるが、研究目的の一部を達成することは可能であり、WINERED分光器での観測の方針を決める上でも参考になる。
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