研究課題/領域番号 |
18H01250
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
土井 靖生 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (70292844)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 星間フ ィ ラ メ ン ト 構造 / 星間磁場三次元構造 |
研究実績の概要 |
星間物質フィラメント構造に付随する磁場について、特にそのフィラメント内部に於ける構造を観測的に明らかにした。フィラメント内部の磁場構造については、これまでその詳細を明らかにした例は存在しなかった。我々は自身の観測データの中から、星形成活動の見られない、従って形成当時の磁場構造を良く保存すると考えられる星間物質フィラメント構造に付随する磁場構造の観測データを選択し、詳細な解析を行った。その結果、ダストの偏光輻射によりトレースされるフィラメント構造が、ダストの全輻射で見たフィラメント構造よりも細くなる傾向を明らかにした。この結果から、整列したダスト粒子に由来する偏光輻射の方がより中心集中した空間構造を示すこと、すなわち、一般的な理解とは異なり、濃い分子雲中でもダスト粒子が良く整列していると考えられることが分かる。且つ、偏光輻射が全輻射に対してより中心集中した"細い"フィラメント構造を示す原因としては、異なる方位角の磁場構造が視線上に重なっている結果、互いの偏光成分が打ち消し合う「幾何学的脱分極」が、フィラメント構造内部で起こっていることが必要である。このことから、我々は"細い"偏光輻射の原因として、磁場がフィラメント形成時の物質収縮時に伴いフィラメント中心部へ向けて引き込まれ、フィラメント中心部へ向けてくびれた「ピンチ構造」を示していると考えられることを明らかにした。フィラメント内部の磁場構造の物理モデルであるTomisaka(2015)との比較から、我々の観測結果は、長さ1パーセク当り100太陽質量にも達する非常に重たい星間物質フィラメント構造の自己重力によるガス収縮が、磁場の力(磁気圧及び磁気張力)によりぎりぎり支えられた磁気亜臨界状態にあるフィラメント構造とその磁場を、斜め方向から観測したと考えると良く説明出来ることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
フィラメント構造内部の磁場構造は、その空間構造が0.1パーセク以下と非常に小さな領域内の構造であるため、これまで観測的に詳らかにした例は存在しなかった。今回我々はNGC1333領域内の複数の星間物質フィラメントについての観測結果を0.02パーセクという高い空間分解能で精度良く観測し、且つ複数のフィラメント構造に対する空間分布を統計的に解釈することで、フィラメント内部の磁場構造を観測的に初めて明らかにした。これは星間物質フィラメント構造の形成とその進化についての物理モデルと、フィラメント内部の磁場構造の観測データの、定量的な比較の初の例である。質量の大きな星間物質フィラメント構造と、その構造を支える磁場との関わりが初めて明確となったことは、フィラメント構造内部の星形成と、フィラメント構造の形成に関わりつつも、その内部に於ける星形成活動につながる重力収縮を抑制する磁場の働きの一旦を初めて明らかにした、非常に重要な研究成果である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究成果に依り、星間物質フィラメント構造、特に質量の大きなフィラメント構造について、磁場がフィラメントの自己重力をぎりぎり支えている磁気亜臨界状態と解釈出来ることが明らかとなった。もしこれが一般的に見られる傾向であれば、異なるフィラメント構造の観測結果について、磁気亜臨界状態を仮定することで、観測される磁場構造から磁場強度を直接推定出来る可能性がある。星間磁場構造の強度の推定方法はこれまで決定的な方法が存在せず、この方法が有効であることを示せれば、これまでの磁場強度推定法とは独立な全く新しい推定方法として、非常に強力な方法となる可能性がある。我々の所有する複数の星間物質フィラメントの磁場構造観測結果、及び新たに取得する同様の観測データについてこの方法を適用し、磁場強度推定法としての有効性を明らかにする。 前年度行った、100パーセクを超える大きな空間スケールに於ける星間物質分布とそこに付随する磁場の三次元分布の推定方法について、ペルセウス座-牡牛座分子雲複合体に適用した方法の他領域への援用を試みる。具体的には、銀河中心方向の距離約1~3キロパーセクに位置する射手座銀河腕内部の磁場構造を、可視偏光観測を実施することで明らかにする。本年度既に観測データは取得済みであり、今後観測装置の精度較正やデータ解析パイプラインの整備を早急に進め、観測データの早期の科学解釈につなげる。
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