研究課題
本研究の目的は、歴史文献中に記述されている天体現象、特にオーロラと黒点の観測記録から、過去の太陽活動および宇宙天気現象の変遷を探ることである。 本年度の成果としては前年度までに引きつづきオーロラ関係の広範な時代・地域の史料の渉猟を行い、世界で最も古いオーロラの記録となりうる紀元前の660年のアッシリアの記録から、20世紀初頭の大規模地磁気嵐の記録まで、いくつかの歴史的宇宙天気現象の記録の同定を行うことができた。また史料と理論モデリングの双方を活用した分析として、1653年のマウンダー極小期中の日本と中国におけるオーロラの記録に着目し、同時期の欧州における黒点スケッチに大きな黒点がみられなかったことから、黒点のない静穏領域からのプロミネンス噴出現象で低緯度オーロラが発生したという仮説をたて、地磁気嵐の経験的モデルを用いてその仮説が妥当であることを示すことができた。これらの成果は5本の査読付き論文として出版されている。この他、太陽を撮像した写真乾板など、近代観測黎明期のデジタル化されていない観測データの分析も進めることができた。歴史学研究へのフィードバックについても本格的に検討を開始している。研究協力者の岩橋が「太陽黒点観測に見る近世後期の天文認識」について日本史研究者の視点から論考を発表した他、自然科学と歴史学の両方の視点からオーロラ記録等の史料を分析することで得られる歴史学にとっての新たな知見について、歴史学の研究会で発表し、論文にまとめているところである。
1: 当初の計画以上に進展している
太陽物理学・地球科学としての成果は順調にあげられており、今年度は5本の査読付き論文を出版した。理論モデリングを援用したという成果もだすことができ、その点では計画通りの進展であるといえる。それに加えて、本年度は本研究における歴史学的成果として、近世日本における天文認識の研究や、自然科学と歴史学の協働による史料分析の方法論についても成果を出すことができた。また、歴史文献を用いたオーロラ研究のオープンサイエンス・科学教育における意義について、関連分野の研究者との交流が進むなど今後につながる新たな展開も出てきた。これらのことを総合して、当初の計画以上に進展していると判断している。
2020年度は最終年度として、引きつづき史料渉猟と分析は継続しつつ、近代観測黎明期のデータを使った19世紀後半から20世紀前半の宇宙天気現象の分析を論文にまとめる予定である。また、2019年度までの研究活動により歴史学やオープンサイエンス・科学教育の観点からも成果が出始めており、これらの新たな展開を次につながる形で論文等にまとめることを目指す。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件) 学会発表 (12件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件)
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