研究課題/領域番号 |
18H01256
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研究機関 | 関東学院大学 |
研究代表者 |
中嶋 大 関東学院大学, 理工学部, 准教授 (70570670)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 硬X線 / CMOS / X線イメージング |
研究実績の概要 |
硬X線まで感度を持たせた高速CMOSセンサを開発し、時間分解能、広帯域感度、さらに撮像分光性能の全てにおいて優れた、宇宙硬X線観測用カメラを開発することが本研究の目的である。申請者は2019年度において、本来可視光用に製作されたCMOSセンサに対し単色X線を照射し、その撮像分光性能を評価した。特に鉄元素からの特性X線6keV付近での分光性能に注目し、5.9keVのX線を室温のセンサに照射した。その結果、読出し雑音は電子数換算で2.0子。暗電流は0.4e-/pix/sec、さらにエネルギー分解能は182eV(半値全幅)であった。これは著者らが別途開発しひとみ衛星に搭載したX線CCD(同179+/-3eV(-110℃))(Nakajima et al. 2018)に匹敵するものであり、それを室温で達成したことは、今後の衛星搭載に向けた一歩である。さらにスペクトルの形状は、0.5keV相当まで有効であった。前年度の結果と合わせると、0.5-22keVの広帯域で精密撮像分光可能なセンサであると言える。しかし一方で、信号電荷が複数ピクセルにまたがるイベントについては、信号電荷の一部を失ってしまっていることが分かった。信号電荷の拡がりによってイベント処理を変えることは、原理的には可能だが軌道上ソフトウエアを簡易にしたいという事情からは好ましくない。そこで我々は空乏層厚の異なる別のセンサについても同様の実験を行ったところ、上記の電荷損失度合いが大幅に異なることが分かった。センサのウエハのうち、空乏化している部分の厚みが2種類のセンサ間で異なることが原因と考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究はX線撮像分光カメラを開発することが最終目的である。その過程で最も重要かつ難易度が高い部分が、X線イメージセンサの開発である。現在までに、CMOSセンサのX線に対する応答を評価するシステムを構築できており、そのシステムを用いた実験結果が続々と出ている。その結果の内容は、十分に衛星搭載センサとしての要求性能を満足する物であった。とくに本研究で開発するカメラの特色は、従来の軟X線(<=10keV)よりもエネルギーの高い硬X線にまで感度を持つ、というものであるが、これまでに試験した結果のうち、22keVに対する応答が非常に優れていることが分かっている。また高速性能により可視光および荷電粒子バックグラウンドも低い。複数ピクセルにまたがったイベントの光子計数についても原因が特定され、対処方法が明らかになった。今後はセンサの放射線耐性の評価、およびカメラボディの設計・製作が課題となる。
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今後の研究の推進方策 |
今後、CMOSセンサの駆動パラメタを最適化するとともに、衛星搭載を念頭に放射線耐性を評価する実験を進める。具体的にはGTO(静止トランスファ軌道)を想定し、衛星およびカメラ筐体によるシールド厚を仮定し、軌道上相当で10年分以上のプロトンを照射し、撮像分光性能への影響を調査する。陽子エネルギーは100MeV、照射量は10e10protons/cm^2程度となる。センサの場所ごとに照射量を変え、それぞれの場所での撮像分光性能を評価することで、軌道上での経過時間に応じてどのような変化が起こるか、を把握する。従来型のX線CCDでは、数krad以上の損傷量でエネルギー分解能の劣化が見られた。CMOSもCCDと同じシリコン検出器であるため似た性能が期待されるが、評価結果は世界的にもほとんど実績がなく、衛星搭載に向けて貴重なデータとなりうる。これと並行して、カメラ設計を進める。具体的には、原子番号の異なるシールドを重ね合わせる Graded-Z シールドを採用したカメラボディを設計し、シミュレーションあるいは実測にて遮蔽性能を実証する。もしセンサ自体の放射線耐性が十分でない場合は、センサ自体の設計を変更するかあるいはカメラ筐体の遮蔽性能を向上させる。以上の実験を進めたうえで、最終的には硬X線感度を飛躍的に高め、2桁を超えるダイナミックレンジ(0.5-100keV)を達成する。
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