研究課題/領域番号 |
18H01258
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研究機関 | 国立天文台 |
研究代表者 |
辻本 拓司 国立天文台, JASMINEプロジェクト, 助教 (10270456)
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研究分担者 |
横山 哲也 東京工業大学, 理学院, 教授 (00467028)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | r過程元素 / 中性子星合体 / 重力崩壊型超新星 / ブラックホール / 矮小銀河 / 隕石同位体分析 |
研究実績の概要 |
星の化学組成解読によるr過程元素解明については、以下の2つの業績を論文として残した。(1). 太陽でのr過程元素の含有量は、太陽近傍星での平均的な値と比べおよそ20-30%程度少ないことを観測的に指摘し、この原因について、太陽系が現在の場所ではなく銀河中心近く(バルジの外側付近)で生まれ、その場所でのバースト的な星形成に付随した化学進化を反映した結果であることを明らかにした。(2). 太陽と化学的物理的特徴が類似した太陽双子星の組成解読の分析結果を化学進化の理論モデルと融合させることから、r過程元素起源天体の同定に成功した。これは太陽双子星の年齢からその星が生まれた場所を同定でき、かつその場所での化学進化を理論的に予測することができるという独自の発想から生まれた手法に基づいたもので、これよりr過程元素の起源天体はこの宇宙に2種類、つまり長寿命の中性子星合体と短寿命の超新星爆発、が存在しなくてはいけないことを明らかにした。また、両者によるr過程元素への貢献度はほぼ同程度であることも突き止め、超新星のr過程への重要性を強調した。
また、分担者横山氏と共にr過程を含む元素合成に関する最新の情報を含む総説を執筆し、Encyclopedia of Geology 2nd editionに公表した。さらに横山氏は、隕石の核合成起源同位体異常を高精度測定するため、単一隕石試料からr過程元素を含む20種類の元素を同時に化学分離する手法を立ち上げるとともに、表面電離型質量分析計(TIMS)を用いて隕石のCr同位体比を超高精度・高確度で測定する新しい手法を開発した。これらの手法を炭素質コンドライトに適用し、隕石のTiおよびCr同位体比の測定結果を地球試料と比較することから、炭素質コンドライトが中性子過剰の環境で形成される50Tiおよび54Crに富むということを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題に直接関連する論文として、筆頭著者の論文2本(Tsujimoto & Baba, ApJ; Tsujimoto, ApJL)の掲載を実現したこと、さらに、分担者である横山氏と共にr過程元素を含めた元素の起源に関するレビュー論文 (Yokoyama & Tsujimoto, Encyclopedia of Geology)が受理されたという実績から、順調に進展しているという判断が妥当と思われる。なかでも、単著である論文は、American Astronomical Society (AAS)からハイライト論文の一つに選出されるなど(AAS Nova, 11 Feb. 2022付け)、高い評価を受けている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度の目標の筆頭に掲げたいものは、銀河系化学進化から宇宙のグローバルな化学進化へ議論を拡張するという独創性に富んだ研究を通して、r過程元素の起源天体の解明に挑むことである。大質量星(太陽質量の8倍以上の星)の最後には、超新星爆発を起こし中性子星を残すか、あるいは爆発を起こすことなくブラックホールを形成するかの2つの運命があるが、近年の観測及び理論研究から、これまでの予想よりもはるかにブラックホールになる確率が高い可能性が指摘されている。この新たな視点を銀河系の化学進化へ導入することから、銀河系星(ディスク星及びバルジ星)の組成解読を行い、中性子星合体頻度の精密な評価及びr過程元素への超新星の寄与を決定していく。さらに、銀河系で得られた知見を宇宙化学進化の議論へと拡張することから、重力崩壊型超新星頻度とブラックホール形成率を赤方偏移の関数として評価を行う方針である。
また、分担者である横山氏は表面電離型質量分析計を用いた隕石の超高精度同位体分析を続行し、前年度までに実施した鉄族元素(Ti, Cr)の同位体分析に加え、r過程元素の同位体分析への挑戦を行う。
このような推進方策を基盤とし、星と隕石の両者からの組成解読を引き続き実行していくことからr過程元素起源全貌に関する描像を構築する。
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