研究課題/領域番号 |
18H01262
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
羽馬 哲也 北海道大学, 低温科学研究所, 助教 (20579172)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 核スピン温度 / パラ水素 / 星間化学 / 彗星 / 原始惑星系円盤 |
研究実績の概要 |
本年度は,宇宙に豊富に存在するパラ水素分子を反応物とした化学反応によって生成した分子のオルソ/パラ比(Ortho-to-para ratio, OPR)を調べるための実験装置の設計をおこなったともに,分子の核スピン状態を制御するための手法を模索したところ,興味深い結果が得られたのでここに報告する. ヘリウム冷凍機によって6 Kに冷却したアルミニウム基板にネオン(Ne)と水(H2O)を1000:1で混合したガスを蒸着すると,ネオンの結晶の中にH2O分子が単離された状態の固体を作製することができる(Neマトリックス).このNeマトリックスを6 Kのまま8時間ほど放置しておくと,Neマトリックス内でH2O分子のオルソ-パラ転換がおき,そのOPRは核スピン統計重率比である3からほぼパラH2Oのみ(OPR = 0.03)へと変化する.その後,Neマトリックスを6 K/minで11 Kまで加熱すると,Neのみが昇華(熱脱離)し,アルミニウム基板上に残されたパラH2O分子が凝集して氷が生成した. この「パラH2O分子を用いて作製した氷」に157 nmエキシマーレーザーを照射することで氷からH2O分子を光脱離させ,そのOPRを共鳴多光子イオン化法により測定したところ,そのOPRは3(核スピン統計重率比)であることがわかった.また「パラH2O分子を用いて作製した氷」を145-160 Kまで加熱し,氷から熱脱離したH2O分子のOPRを測定したところ,光脱離と同様にOPRは3であることがわかった. H2O分子の核スピン状態を制御して(パラH2O分子を用いて)氷を作製したにもかかわらず,その氷から光脱離・熱脱離したH2OのOPRは3(核スピン統計重率比)になったことから,氷内でH2Oのオルソ-パラ転換は速やかにおきており,H2OのOPRは氷内で核スピン統計重率比になっていることが明らかとなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験装置の設計はおおむね予定通り進んでいるため.また,核スピン状態が制御された分子(例:パラH2O分子)を用いて固体(氷)を作製し,その固体から光脱離・熱脱離した分子のOPRを測定する手法の開発にも成功したため.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,パラ水素分子を用いた化学反応によって生成したH2O分子のOPRを調べるための実験装置の構築・完成を目指す.実験では,まず「共鳴多光子イオン化法」を用いてH2O分子の検出を試みる.万が一うまくいかない場合は「レーザー誘起蛍光法」を用いた実験についても検討する. また,当初の予定とは異なるアプローチである「Neマトリックス」を用いて,核スピン状態が制御された分子を用いて固体を作製する手法が確立したので,この手法を用いて新しい研究ができないか模索する.
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