本研究では,2020年代の惑星着陸探査に向けて小型軽量な質量分析システムを開発している.惑星の起源と進化を探るうえで,惑星の元素組成や同位体比は極めて重要な情報である.このため,惑星探査において元素分析は最重要観測項目の一つとなっている.ところが,固体物質の「その場・多点」質量分析は,複雑な機構のロボティックアームの実装が想定されるなど,工学的ハードルの高さゆえに日本の探査機での実施が困難であった.そこで本研究では,サンプルハンドリング機構無しで固体物質の元素分析が可能な,シンプルで小型軽量の質量分析システムを開発している.この技術が成功すれば,日本の中型・小型・超小型探査機による,月・火星および小天体の固体物質分析の現実性は飛躍的に増し,多種多様な惑星科学ミッションの可能性が広がる. 質量分析器にはポンプを取り付けて超高真空を確保したうえで,計測対象(岩石サンプル)に赤外レーザを照射してサンプルガスを発生させる必要がある.2019年度は,(1)探査機への搭載が可能な超小型ポンプの動作試験,および,(2)岩石サンプルからの脱ガスのための赤外レーザの動作試験,の2点を実施する計画であった. (1)については,米国から調達したポンプの動作試験において制御系エラーが発生しており,開発メーカと連絡を取りながらトラブルシューティング中である.(2)については,1.54umのレーザを調達して予備的な動作試験までを終えており,岩石サンプルへの照射・アウトガスの質量分析が次の課題である.
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