研究課題/領域番号 |
18H01266
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
岩井 一正 名古屋大学, 宇宙地球環境研究所, 准教授 (00725848)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 宇宙天気 / 電波観測 / 太陽風 / FPGA / フェーズドアレイ |
研究実績の概要 |
太陽面爆発「フレア」では太陽大気の一部が吹き飛ばされ(CME)、太陽から吹き出す風「太陽風」に乗って地球にも到来し、地球周辺環境に深刻な影響を与える。本研究ではCMEが電波天体と地球との間を通過する際に、電波天体からの電波が散乱される現象を観測し、CMEの伝搬過程を解明することを目的としている。そして、その観測の超高性能化を実現するために、デジタルフェーズドアレイ技術を用いた電波の多方向同時観測装置の開発を行っている。 本研究では初年度に、多数のアンテナからの電波入力信号をデジタル化し、リアルタイムに解析することで、任意の方向に複数のビームを作るリアルタイム受信機の設計及び開発を行った。2年度目は、この設計に基づきFPGAとAD変換器を用いたデジタルボードによる試作機の開発を行った。その結果、当初の目標性能を達成できる信号処理装置が完成した。本装置は従来のデジタルフェーズドアレイ装置に比べて小型で、かつ極めて安価であり、量産によって超高性能なフェーズドアレイ観測ができる可能性がある。 3年度目に当たる本年度は、本装置に基準信号を入力することで、実際の天体観測を模擬した性能評価を行った。その結果、当初のビームフォーミング目標を達成していることがわかった。一方で、実際の天体観測では、アンテナや受信機系を含めた較正をアナログ系で行わず、デジタルフェーズドアレイ装置内部で行う方が効率的であることがわかった。そこで、この機能を持ったデジタル回路を設計し、FPGAに実装する開発研究を行なった。その結果、アンテナ・受信機系を含む全観測系をデジタル上で較正できる非常に画期的な装置にアップグレードすることに成功した。並行して、既存装置のデータ解析を行い、CMEの電波散乱データをリアルタイムシミュレーションに取り込むデータ同化予測システムの開発研究も行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度までに、目標としていたフェーズドアレイ装置の開発・および性能評価が完了した。また、実験の過程でアナログ系で発生する誤差をデジタル系で較正することで、アナログ系を簡略化し、かつ較正にかかる時間も短縮できるデジタル回路の可能性に気づき、この開発に成功することができた。並行してアンテナ系の設計も行っている。また、既存装置のデータ開発から毎年1本の主著論文を出版している。これらは当初計画通りであり、較正系の発見は当初の計画以上の成果である。一方、2021年3月末納期だった部分が、新型コロナウイルス感染症および世界的な半導体不足の影響を受け納品されなかった。これは2021年に問題無く納品されている。以上より、おおむね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
既に当初の目標の大部分を達成できたため、本研究は次の段階に発展できる状況にある。2021年度は2020年度に納品できなかった部分の納品を完了次第、新たな予算獲得に向けた努力を開始し、本研究で開発したデジタルフェーズドアレイ装置の量産を開始する。特に本装置は多段に接続することで、大規模なアレイを段階的に構成できることを念頭に設計されている。まずは、多段接続で実際に大規模なアレイが構成できるか、また、その時にどのように多段に発生する誤差を較正するか、の検討を行い、2段の多段アレイシステムの開発に挑戦したい。
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