研究課題/領域番号 |
18H01267
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
佐々木 晶 大阪大学, 理学研究科, 教授 (10183823)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 宇宙風化作用 / はやぶさ2 / 熱疲労 / 反射スペクトル / 含水鉱物 / 暗化 |
研究実績の概要 |
今年度(平成30年度)は、現有の拡散反射測定装置の測定波長範囲の3ミクロンへの拡張を行った。光源の検討により当初の見込みよりも赤外域の感度は保たれ、2.7ミクロンの含水鉱物の吸収帯は測定できることが明らかになった。炭素質天体シミュラントの測定はすでに開始している。一方で、硫化鉄(FeS、FeS2)を加えた宇宙風化実験では、反射率の著しい低下が見られたが、短時間で回復する(暗化が弱くなる)成分も明らかになった。
2014年12月に打ち上げられた「はやぶさ2」は、予定通り2018年6月にターゲット天体リュウグウに到着した。離れた距離からの全球マッピングのほか、何回かの近接オペレーションを行い、着地探査機MINERVA-IIA,BおよびMASCOTを成功させている。リュウグウは二方向反射率が2%以下の、太陽系でも最も暗い天体である。表面はさまざまなサイズの岩石で覆われていて(存在度はイトカワの約2倍)ラブルパイル天体である。密度から求められる空隙率は50%を越える。 表面の岩石には数十%の明るさの違いがある。一般的には、明るい岩石は表面が滑らかで層構造を有する。暗い岩石の表面は凹凸が多い。これは、数10メートルスケールの大きなボルダーから数10cmの岩石まで共通するスケールによらない特徴である。スペクトルを見る限り組成に大きな違いはなく明るさの変化は宇宙風化によると考えられる。岩石の中で、割れた断面が3-4倍明るいものがある。これは、表面の暗さが宇宙風化によること、しかも暗化が卓越することを強く示唆している。
リュウグウ表面の岩石の中には、南北方向に割れているものがあり、とくに、数メートル以下の岩石では、他方向よりも多い。熱ストレス(自転周期は短いため、年変化に対応した)による可能性がある。今後も、画像解析、シミュレーションで、熱疲労の効果を検証したい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
拡散反射測定装置の測定波長を拡張することができ、実際に多くの炭素質天体が保有する2.7ミクロン帯の計測が確認できた。「あかり」宇宙望遠鏡によるC型小惑星の反射スペクトル観測のデータと同様に、はやぶさ2,オシリス・レックスの赤外スペクトルメーターの観測により、リュウグウ、ベンヌには、2.7ミクロンの吸収があることがわかっている。しかし、吸収帯の深さ、形状は異なっており、リュウグウのほうが受けた変成が強く、脱水が進んでいるのではないかという仮説がある。これが天体形成前、形成段階、形成後の過程であるかは、まだ明らかになっていないが、過去には、ベンヌよりもリュウグウの方が、太陽に近い軌道をとっていた可能性がある。その検証のためにも、アナログ物質や隕石を使った測定を進めていきたい。
研究代表者は、リュウグウの初期データ解析に、はやぶさ2のリュウグウ到着時より積極的に参加しており、岩石の風化、クラックの議論などを牽引することができた。本研究費より旅費、ソフトウェア、マッピングツールを拠出できたことが重要と考えている。カメラやレーザ高度計の成果をまとめた初期成果論文にも、貢献が認められ著者として入っている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究により、リモートセンシングデータの解析を促進させることが、リュウグウの帰還サンプルの分析にも繋がると考えている。イトカワでは、はやぶさのリモートセンシング観測で宇宙風化作用の進行が明らかになり、帰還サンプルの分析の1つのテーマとなった。現在のところ、はやぶさ2は大きなトラブルはなく、サンプリングも成功したと考えられている。本年度は、はやぶさ2のデータ解析にも引き続き注力していきたい。 長波長側の反射率の測定であるが、暗い物質の測定時にはノイズが大きいため、今後は乾燥空気によるパージなど、測定条件の向上を目指して準備をしている。 これまでの観測から、リュウグウの表面の反射率が低いものの、岩石の中で、割れている断面が3-4倍明るく8-10%の反射率をもつものがある。2-3%の反射率から、変成を受けたCMコンドライトがリュウグウの構成物質の候補として議論されているが、CV, COといったもともと10%程度の反射率があるものも、考える必要がある。明るさの変化のタイムスケールはこれまで考えられていたS型のタイムスケールよりもかなり短いかもしれない(1000年以下?)。その場合、太陽紫外線や加熱の効果も無視できないと考えている。有機物が変性を受けてグラファイト化されれば、強い暗化が説明できるかもしれない。 加熱サイクルによって、岩石のクラックが成長するかについて、実際に岩石の加熱シミュレーションを行い、変形量の計測を行い、熱疲労の効果を検討したい。実験の準備を進めている。
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