研究課題
初年度に改良した拡散反射測定装置を使い、炭素質隕石や石炭の反射スペクトルを測定した。サンプルは、広島大学の藪田氏、カタリナ天体物理学研究所の巽氏に、提供して頂いた。一見すると同じような黒い物質でも、紫外可視域から近赤外域の反射スペクトルは異なる。200nmから測定したが、リュウグウのスペクトルに確認された紫外域のアップターンは確認されていない。また、太陽からの紫外線を長時間浴びると、表面の鉱物の反射スペクトルが変化することが知られている。この効果を調べるために、新たにキセノンランプによる紫外光源を導入した(本年度の備品)。カンラン石のペレット試料への照射で反射スペクトルが減少することが確認されている。初年度に導入した新しいパルスレーザー装置を用いた、宇宙風化模擬実験も実行している。ただし、弱いレーザーを安定して出すことが難しく、年度末に別予算で、レーザー光のアッテネーターを導入した。リュウグウ表面の岩石の割れ目が南北方向に多いという事を、100枚以上の近接画像から得た500個以上のクラックの分布から確認した。ストレート型、蛇行型、途中停止型、複雑型にクラックを分類したが、いずれも南北方向に走るものが多い。リュウグウの自転軸はほぼ直立しており(自転軸傾斜角172度)日照の加熱の違いは、東西方向の非対称としてあらわれ、南北方向の亀裂を生むと考えられる。はやぶさ2の画像・高度計によるリュウグウの形状モデルから、YORP効果を計算してリュウグウの自転パラメーターの変遷を制約することに成功した。リュウグウの自転は遅くなっているが、自転軸傾斜の変動も考慮すると、赤道域のリッジを形成した高速自転を初期値とするのは難しく、衝突など他の過程が必要になることを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
研究代表者のグループは、リュウグウの初期データ解析に、積極的に参加しており、岩石の宇宙風化、熱ストレスによる割れ目などの議論をまとめている。クラックの方向分布は新しいテーマであり、割れ目の解析と室内実験を結び合わせた研究が修士学生の修士論文になった。室内実験では、クラックのある隕石を加熱して、応力の変化を画像解析から求めた。主にクラック分布の研究を発展させる形で雑誌論文投稿を準備している。2019年度は、日本(5月)、スイス(9月)、アメリカ(11月)の3度の国際会議で成果を発表した。3月のアメリカの月惑星会議はキャンセルになったが、電子ポスターの投稿は行った。これまで、はやぶさ2の画像解析では4本の論文(2本は投稿中)、高度計解析では3本(2本は投稿中)の共著となっている。また、はやぶさ2の画像・高度計によるリュウグウの形状モデルから、リュウグウの自転パラメーターの変遷をYORP効果から制約することに成功し、私が指導する学生の博士論文となった。
昨年、はやぶさ2は、リュウグウの観測およびサンプル採取を終えて、地球への帰還を行っている。本年度中にはサンプルの初期分析が開始される予定である。これまでに続き、はやぶさ2のリモートセンシングデータの解析を継続する予定である。リュウグウの宇宙風化については、太陽に近づいた時期による加熱プロセスにより、全球的に赤化・暗化を受けた微粒子が生成されたというモデルが、リモートセンシングデータとサンプル採取時の画像から推定されている。我々は、この過程が単純な加熱ではなく、紫外線照射や、太陽風粒子の照射の可能性もあるのではと考えている。そのため、炭素質隕石および石炭などの模擬物質に照射実験を行い、反射率変化を測定する計画である。宇宙風化作用の実験については、神戸大学、ブラウン大学、JAXAに加えて、東京大学、東北大学、極地研究所、広島大学、カナリア天体物理学研究所などの研究者と協力して行う予定である。
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