研究課題
コンドリュールの形成に関して様々な理論に基づくモデルが提案されているが、原始惑星円盤を模擬(無容器、還元雰囲気)することは技術的に困難な点が多く、再現実験による研究報告は十分ではない。そこで本研究では、新たな加熱溶融法として、縦型管状炉・ガス浮遊法・レーザー加熱法を組み合わせたハイブリッドシステムの開発に挑戦している。当該年度は、光学定盤上に設置した100Wファイバーレーザー(SPI社 redENERGY G4, 初年度に導入)から出射される高出力のレーザー光を縦型管状炉の中に精度良く導入し集光するために、レーザー出射位置から試料に至るまでのミラーとレンズの口径・枚数・焦点距離を含む幾何学の設計および最適化作業を行った。その結果、周辺気体が常温の場合は理想的な集光状態が得られるが、高温の場合は気体の対流や密度の揺らぎによって集光点が定まらないということが分かった。そのため導入するガスの流量の一定化やガスを予備的に加熱するなどの工夫を行った。また、浮遊させる試料のサイズや形状を真球状に加工することは本研究において非常に重要な技術要素である。初期形状がいびつな場合、浮遊が安定せず、そのまま加熱するとノズル部と接触し張り付いてしまう。そこで、当該年度に導入した光造形3Dプリンタを用いて転動造粒装置の設計・作成を試みた。転動造粒装置とは、傾斜した浅いパンを低速で回転させ、原材料となる酸化物粉末試料を導入し、造粒促進剤(ポリエチレングリコールなど)を添加して粒体を形成するものである。試作品を用いてテストしたところ、直径1-2 mm程度の大きさの球状の物質を作成することに成功した。
3: やや遅れている
縦型管状炉本体および浮遊ガスの導入部分はすでに稼働しており、最高1500℃の状態で動作可能である。レーザー加熱については、常温状態であればレーザー光を試料部に集光することは簡単であるが、高温の場合に気体の対流や揺らぎによってレーザーの集光点が定まらない問題がわかっている。そのために、導入するガスの流量の一定化やガスを予備的に加熱するなどの工夫を行っている。さらに、天体観測の際に用いられる技術であるコンピューターヴィジョンによる位相補償法を取り入れることも視野に入れている。ノズル部分の最適化については、まだ数種類の形状しか作成していないが、数分程度であれば安定浮遊させることが出来ているが、さらに安定浮遊する条件を模索している状況である。また、転動造粒法で作成した出発物質については、粒度分布にばらつきがあることや材料強度が低いことが分かっているので、これについては、転動造粒装置の形状の最適化、造粒促進剤の変更、焼結プロセスの改良を行う必要がある。以上のことを総合的に判断して、おおむね順調に進展していると判断した。
新型コロナウィルスの影響を鑑みて、2020年度の前半は在宅でも行うことが出来るような作業を行う。レーザー出力とガス流量を連続的かつ高速に変化させるために、シリアル通信のインターフェースソフトウェアおよびマイコン回路を設計・開発する。また、浮遊状態にある試料はハーフミラーを介して超長焦点のCCDカメラでモニタリングされているが、この映像をコンピューターヴィジョンによってリアルタイム解析するソフトウェアシステムを構築することも予定している。具体的には映像から試料の位置を追尾し、試料の位置に応じてガス流量やレーザー出力・照射方向にフェードバックをかけるという方法であり、先述の制御システムと組み合わせることで安定した浮遊状態を維持することが期待される。これらの作業が終わった後、実際にこのシステムによって作成した浮遊溶融試料の電子顕微鏡観察を行う。試料は表面観察を行った後、切断研磨して内部断面の微細組織観察および化学組成分析を行う。これらの結果と天然のコンドリュールの組織を比較し生成条件を検討していく。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
PHYSICAL REVIEW B
巻: 101 ページ: 035146
10.1103/PhysRevB.101.035146
Planetary and Space Science
巻: 182 ページ: 104819
10.1016/j.pss.2019.104819
http://pmsl.planet.sci.kobe-u.ac.jp/~seto/