研究課題/領域番号 |
18H01274
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研究機関 | 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 |
研究代表者 |
阿部 琢美 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 宇宙科学研究所, 准教授 (40255229)
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研究分担者 |
齊藤 昭則 京都大学, 理学研究科, 准教授 (10311739)
渡部 重十 北海道情報大学, 経営情報学部, 教授 (90271577)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 測定器開発 / 電離圏イオン / イオンドリフト / 中性-電離大気結合 / 低エネルギーイオン源 |
研究実績の概要 |
電離圏に特有の現象である電離圏ダイナモや電離圏プラズマ密度擾乱の解明にとって中性大気とプラズマの相互作用の理解は重要な鍵である。日本では熱圏中性大気運動の観測手法は近年確立されてきたのに対し、電離圏においてイオンドリフト速度を高精度に直接観測できる小型の測定器は存在しないのが実状である。電離圏のような弱電離気体中の中性大気とプラズマの相互作用、特に運動量輸送については地上の実験では測定することが出来ず、宇宙空間で観測する以外に方法は無い。このような背景のもと、本研究では電離圏におけるイオンドリフト速度および密度の推定を可能にする観測ロケット・人工衛星搭載用小型測定器の開発を行っている。 2019年度までに測定器のセンサ部、電気回路部をそれぞれ試作した後に組み上げを行い、測定器の基本構成は完成させた。2020年度にはこの測定器の基本性能の確認に重点を置き、研究を進めた。新型コロナ感染拡大の影響により所属機関に入構できない期間が生じ、研究を希望通りに進められない時期があったため当初予定通りの進捗は得られなかったが可能な範囲で研究を前進させるように努めた。 測定器の基本性能を確認するため、スペースチェンバー内部に電離圏プラズマを模擬する環境を作り、開発した測定器を用いてイオンに関するデータの取得を行った。データの解析によりイオン密度とイオン温度を推定したところ、妥当な値が得られた。この結果から本研究で開発したイオン測定用の測定器が当初掲げた所定の性能を有することが確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナ感染拡大の影響により所属機関に入構できない期間が生じ、数ヶ月間実験装置を使用できなかったために研究に遅れが生じた。 2020年度は研究者の所属機関が所有する大型のスペースチェンバー内の電離圏中に存在する低エネルギーの熱的プラズマを生成し、本測定器によりRPA(Retarding Potential Analyzer)印加電圧に応じたイオン電流値の変化、72枚の電極によるイオン電流分布等のデータ取得を実施し、その解析から性能を評価した。今回の評価の指標はイオン密度および温度を用いることとし、測定器取得データからこれらを支障なく推定できるかに重点を置いた。 イオン密度については測定器により得られるイオン電流値の最大値から、イオン温度についてはRPA部に印加する電圧を上昇させた時の電流値に変化率から求めるようにした。このようにして計算されたイオン密度およびイオン温度を、同じくチェンバー内に設置したラングミュアプローブによる測定から求めた電子密度(イオン密度と等しいと考えられる)、電子温度(イオン温度に近いことが予想される)と比較したところ妥当な結果が得られたことから、測定器は当初目指した性能を有していることが確認できた。 このようにイオン密度と温度の推定が可能であることは確認できたがイオンドリフト速度推定については未だ検証がなされていない。これはスペースチェンバー内に低エネルギーイオン流(すなわち熱速度よりも大きな速度で流入するイオンの流れ)の生成が出来ないためである。国内外の研究者に協力を求めたが、いずれもこのような低エネルギーイオン流の生成には苦慮している状況で、このような測定環境の構築は世界的な課題であるかもしれない。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果として、イオンドリフト速度推定以外の測定器性能の確認は終了している。これを受けて、今後は測定器を飛翔体に搭載することを前提にした小型化の検討が必要になる。具体的には測定環境に合わせたセンサ部の小型化、センサ部と電気回路部のインタフェースの再設計が必要になる。特に後者は作り方によっては大きなノイズを発生する要因となることから、十分な検討を行った上で設計を進める必要がある。 また、これまでの研究結果として低エネルギーイオンのパラメータ推定にはプラズマと測定器間のポテンシャル差を把握しておくことが重要であることがわかった。このため、測定器を飛翔体に搭載する場合であっても、プラズマに対する測定器の電位をモニターする必要がある。このようなモニターは静電プローブによっても可能であることから、今後は本測定器に静電プローブを追加する可能性についても検討を行うべきである。 イオンドリフト速度の測定能力の確認は依然として課題として残されている。これまでは後方拡散型プラズマ源で生成したプラズマの加速という前提で考えてきたが、発想を変えて宇宙プラズマ物理学以外の他分野で使用されているイオン源等のデバイスにより希望するイオン流を生成できないか試行してみる予定である。
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