(1)アンサンブル予報実験結果の解析と成層圏循環の安定性解析:2009年と2010年に生じた成層圏突然昇温(SSW)の予測可能性を比較するため、大気大循環モデルを用いたアンサンブル予報実験を行った。その結果、2009年に生じた極渦分裂型SSWの予測可能期間は約7日で、13日以上前から予測可能であった2010年に生じた極渦変位型SSWに比べかなり短かいことが明らかになった。次に、非発散順圧渦度方程式を用いて、アンサンブル平均予測値で与えられる東西非一様な流れ場の力学安定性を解析し、2009年SSWの発生直前に、上部成層圏極渦は極めて不安定である事が分かった。一方、2010年SSWの期間では、大きな成長率を持つ不安定擾乱は存在しない。さらに、2009年SSWの発生期に存在する不安定擾乱の構造は、アンサンブルスプレッドのEOF第一モードとよく似ていた。従って、大きな成長率を持つ力学不安定モードの存在によって特徴づけられる予測障壁が上層成層圏循環に内在したため、2009年SSWの予測可能期間は2010年SSWに比べ極端に短くなったと考えられる。 (2)長期再解析データ等の解析:過去40年の長期再解析データJRA-55と気象研究所全球大気モデルに基づく「地球温暖化対策に資するアンサンブル気候予測データベース」d4PDFの6000年分のデータを用いて、北半球冬季成層圏における惑星規模波束の下方伝播事例数の経度依存性を調べた。その結果、いずれのデータでも、西半球では二つの異なる経度で顕著な極大を持ち、東半球ではある一つの経度で弱い極大を持つことが分かった。また、下方伝播が生じる経度幅にも広い事例と狭い事例との二つの極大が存在することが分かった。さらに、広い経度幅を持つ西半球下方伝播事例が、より強い寒波を対流圏で引き起こすことが分かった。
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