研究課題/領域番号 |
18H01283
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
伊藤 耕介 琉球大学, 理学部, 准教授 (10634123)
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研究分担者 |
山田 広幸 琉球大学, 理学部, 准教授 (30421879)
山口 宗彦 気象庁気象研究所, 応用気象研究部, 主任研究官 (80595405)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 台風 / 藤原効果 / 進路予報 |
研究実績の概要 |
基礎研究として,順圧非発散渦度方程式を用いて2つの台風ライクな渦に関する特異ベクトル解析を行った.その結果,近接する渦が無い場合に比べて,近接する渦がある場合には台風の移動に関わる波数1成分が卓越しやすいこと,2つの渦の中心を結ぶ線上で順圧不安定の条件が維持され,誤差が持続して成長し続けることが明らかとなった.このことは,複数の渦がある場合の渦の進路予報が本質的に難しいことを意味している.また,外側の負の渦度が強すぎる場合には,2つの渦が離れていくため,順圧不安定の条件が満たされなくなり,誤差の成長が持続しないことも明らかとなった.これらの研究成果について日本気象学会などで発表を行った.また,3次元モデルにおける藤原効果の数値実験も開始し,対流活動の寄与があることが明らかとなったため,その初期的な結果を台風研究会などで報告した. さらに,気象庁現業モデルで進路予報を大外ししたChanthu (2016)の事例について衛星観測や高解像度モデルを用いた研究を行った.その結果,台風の西側に数十キロスケールの対流活動が存在し,台風の進路が小規模な渦との「藤原効果」により影響を受けていたことが明らかとなった.一方,現業モデルでは,そのような渦が再現されていなかった.これは,対流活動の表現が,Chanchuの進路予報に大きく関わったことを示唆するものである. このほか,2019年8月に参画する研究者が集う会合を行い,互いの進捗について紹介したほか,台風の外部領域のサイズが進路予報に与える影響に関する論文や諸外国の研究者との共同執筆で台風進路の基礎研究に関するレビュー論文などを出版した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
順圧非発散モデルを用いた特異ベクトル解析により,複数の渦が存在する場合には,わずかな擾乱が成長して,将来の渦の位置に大きく影響することが明らかとなった.これは,本研究課題の重要なテーマの一つである複数の台風が存在する場合の予測可能性に関する重要な発見である.また,3次元非静力学モデルを用いて2つの台風を想定した理想化実験の初期的な解析では,対流活動の寄与が大きいことが分かってきた.この研究は,今後,2次元的な古典的な藤原効果の描像を大きく変える可能性がある. このほか,台風進路の大外し事例の研究により,対流活動に伴う小さなスケールの渦と台風との相互作用が台風進路に影響が大きいことなど,当初想定していなかったスケールでの「藤原効果」も明らかとなってきた. 研究者同士での研究打ち合わせや情報交換も積極的に行われており,互いの研究にとって有益なものとなっている.これまで明らかになったことについての研究発表や論文刊行も進んでおり,今後も成果が増えていくことが期待できる.
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今後の研究の推進方策 |
順圧非発散モデルを用いた研究に関しては,予測可能性に関する新たな知見がすでに得られているため,これを論文としてまとめることに注力する.また,理想化された3次元非静力学モデルを用いた実験の初期解析では,古典的な枠組みには存在しなかった対流活動の寄与が一定程度あることが明らかとなったため,渦位方程式の解析などを通じて,より詳細な調査を進めていく予定である. また,2つの台風でなくても,台風より小さなスケールの渦や前線に伴う渦との相互作用によって,台風の進路に影響が出ることも明らかとなってきた.様々なスケールの渦と渦の間に発生する「藤原効果」についても積極的に研究を進めていく必要がある. これまでの研究は主に数値実験に基づいて実施てきたが,過去の事例解析や観測に基づいた研究はまだ十分であるとはいえない.そのため,数値モデル以外の手法を用いた研究についても積極的に進めていく.
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