研究課題/領域番号 |
18H01290
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
寺田 暁彦 東京工業大学, 理学院, 講師 (00374215)
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研究分担者 |
大場 武 東海大学, 理学部, 教授 (60203915)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 土壌気体水銀 / 草津白根火山 / 水蒸気爆発 / 熱水系 |
研究実績の概要 |
本年度は,土壌ガスとして地上へ放出される揮発性成分の1つである単体の気体水銀(以下,GEM)の面的分布を明らかにするため,草津白根山周辺の合計81点においてGEM放出率分布を測定した.熱水系やその周辺に存在する変質鉱物に含まれる水銀は温度変化に鋭敏に応答し,揮発して大気へ放出される.このような GEM は,周囲よりも透水性の高い破砕帯を優先的に経由し地上へ放出されるであろう.そのため,GEM 放出率分布は地下浅部透水係数の不均質を反映していることが期待される. 得られた GEM 放出率の範囲は 0.8 - 67×10^-3 ng/m2/s,中央値は 3.1×10^-3 ng/m2/s である.この範囲は,世界各地の火山熱水系周辺で測定された GEM 放出率の値の範囲に概ね一致する.白根火砕丘南側斜面では,水釜南部から南西(Aと呼ぶ)・南東方向(Bと呼ぶ)に伸長する高 GEM 放出率帯が初めて観測された.これらの領域の GEM 放出率は白根火砕丘周辺の背景値より約10倍高い. 高放出率帯(A)は過去の火口列,すなわち割れ目噴火の位置にほぼ一致するほか, MT 探査から示唆される地下構造の不連続にも矛盾しない.すなわち,Aは地下の破砕帯を反映していると思われる.一方,南東方向へ伸びる高放出率域(B)には対応する火口列が確認できない.過去の噴火記録によれば,湯釜内部にはBと同じ北西-南東方向の割れ目が出現したことがある.すなわちBも伏在した破砕帯に対応すると考えられる.地表面で火口列が確認されないのは,この領域が過去の噴出物に厚く覆われているためであろう.その事実は,Bの先端付近で2017年度に実施したトレンチ掘削結果からも明らかである.Bの南東端は湯釜火口中心から 700 m 離れた国道付近まで伸びており,Bは将来的に水蒸気爆発を起こし得る領域として留意する必要がある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
白根火砕丘の南側斜面周辺において,地下透水係数の不均質を反映していると考えられるGEM放出率の不均質が認められた.特に東京工業大学の観測局舎(KSR)周辺で比較的大きなGEM放出率が認められる.KSRでは商用電源やデータを遠隔地の伝送するシステムも存在する.すなわち,次年度以降に予定している水銀連続観測点の設置候補地としてKSRが有望であることが判明した.これは,本年度に得られた大きな成果の一つである. この高いGEM放出域周辺では,若干地温の高い領域も見つかった.一方で,土壌CO2放出率に有意な値は認められていない.高いGEM放出率が認められる背景は必ずしも自明ではなく,別の化学的手法も併せてGEMの起源を検討する必要がある. 一方,近年は草津白根山の火山活動が不安定であり,噴火等の危険もあることから専門業者や学生による十分な調査ができていない.これまで実施したGEM放出率観測点の間隔は100m前後あり,本課題の主テーマである連続観測の設置点は,より短い空間スケールでのGEM測定結果を待って最終決定する必要がある. また,土壌気体水銀を自動連続観測するシステムの詳細を検討した.ひろく内外から調達可能な測定装置を検討した結果,ある海外製の測定装置が最適であるとの結論に至った.一方で,火山観測としての実績に乏しい.装置の仕様を検討したところ,周辺大気に気体水銀が存在する状況では,測定の信頼性に問題が生じることが分かった.実際に,設置候補地周辺では周辺大気に環境基準前後に達する気体水銀が測定されたことがあり,測定装置をそのまま導入しても意味のあるデータは得られないと思われる.測定の仕組みを変更し,濃度から放出率へと換算するための新たな定式化を行なうことで対応する. 以上のように,当初計画通りに進捗している状況とは言えないものの,目的達成に向かって概ね順調に進んでいると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の主要テーマは,火山観測として意味のある場所に測定感部を設置することである.これまで,本年度までに設置候補となり得る高水銀放出帯を見出したことで,その実現可能性が高まった.この高放出帯は,東京工業大学が運用している局舎に近接しており,測定装置本体は同局舎内に設置すればよい.同局舎には商用100V電源,非常用電源および通信回線が整備されており,8 km離れた東京工業大学観測所へデータをリアルタイムで通年送信できる.一方,センサ部分の具体的な設置場所が未定であり,それを絞り込むために,局舎周辺で多点水銀放出率観測を実施する必要がある. ただし,現地環境は必ずしも連続観測に好ましいとは言えない.現地は除雪作業による車両進入や観光用の諸設備が存在する.冬季は積雪するために現地作業が不可能となるほか,ガス導入部分管内の結露が凍結する等によって目詰まりを起こし,観測が停止する等のリスクも考えられる.そのため,本年度試験的測定と位置付けて,測定装置本体を導入するとともに,まずは数日間の連続観測を実施して問題点の整理を行う. 一方,設置予定場所で測定される水銀の起源に関しても研究を進める.具体的には,地中温度分布,土壌CO2放出率測定を同一地点で行う.特に高い放出率が認められる地点においては地中ガスを採取する.そのガス中のCO2やHeなどの濃度や同位体比などを測定することで,土壌ガスに対する火山ガスの関与の程度を検討する.また,周辺から湧出する熱水を繰り返し採取し,水銀をはじめとする各陽イオン濃度の時間変動を明らかにし,今後測定される土壌水銀放出率変化との関係を検討する.
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