研究課題/領域番号 |
18H01290
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
寺田 暁彦 東京工業大学, 理学院, 准教授 (00374215)
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研究分担者 |
大場 武 東海大学, 理学部, 教授 (60203915)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 土壌気体水銀 / 火山噴火 / 火山モニタリング |
研究実績の概要 |
土壌気体水銀の起源を検討するため,これまで高い水銀放出率が測定されたことのある領域において,深度1mから地中ガスを採取した.すなわち,地中に採取管を埋設し,周辺土壌中のガスと採取管内が平衡に達することを期待して約1か月静置したのち,内部ガスを採取してガスクロマトグラフィーにて分析した.この結果,例えば噴気孔から数10m以内の領域では濃度数10%以上に達するCO2やH2Sが測定されたが,それ以外の成分(N2やO2,Ar等)の組成比は概ね大気組成に一致した.別の領域でも結果は同様である.一方で,炭素同位体比に基づき検討したところ,3成分混合,すなわち植物起源,大気,および同火山で噴出する噴気ガスが混合したときに期待される混合曲線で,観測結果が説明できることが分かった. 一方,前年度に導入した水銀連続観測装置について,標準水銀ガスに対する収率を室内実験に基づき確認した.この結果,収率はチャンバーサイズ等に依存するが,最も適切な条件において99 %を得た.本実験により,土壌から拡散する水銀を高い信頼性で定量できることが示された.なお,先行研究でも示されているとおり,サンプルガスが通過するチューブの素材により収率が悪化することも確認できた.本研究ではPTFEチューブを用いることで高い収率が得られている. 凝結水除去については,もともと液滴として存在する水を物理的に落とす特殊な瓶を導入した.また,温度差に基づく凝結水の発生を防ぐための加熱ヒータを導入した.この工夫により,測定装置に水滴が侵入し,装置故障を起こすリスクを低減させた.ただし,測定環境においてチャンバー内面に凝結水が発生することは完全には防げない.室内実験の結果,このような凝結水が発生した場合でも,それにGEMを吸着することで測定から漏れる効果は無視できるほど小さいことを確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本測定装置は液滴としての水に弱く,水滴の進入で容易にセンサ部分が破損することから,防水機構の確立が野外観測実施のために不可欠であった.しかし,準備していた防水機構の有効性を確認するための野外実験が,新型コロナウイルスの流行による出張制限のために一部実現できない時期があった.これを受けて,本資金の繰り越し等の対応がなされた結果,防水機構に関する課題は令和3年度の早々に克服された.実際に,令和3年度は当初計画していた野外定点観測が無事に実施され,具体的な研究の進展が得られている(令和3年度報告参照).すなわち,繰り越し時に想定・計画した内容で研究は予定通り進捗した.ただし,年度当初に考えていた研究計画の一部,すなわち火山における様々な実地観測は,その一部は令和3年度に実施することになった.これらの状況を総合的に考え,令和2年度の研究進捗は「やや遅れている」と評価した.
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今後の研究の推進方策 |
測定に必要な装置が準備されたこと,実験的測定により測定精度が保証されたことで,現実の火山において連続観測を行う準備が本年度までに整った.先行研究によれば,火山におけるGEM観測に与える重要な環境要因は地表付近の温度である.しかし,温度が影響する具体的な機構には諸説があり,温度補正手法は未確立である.そこで本研究では,精密GEM連続観測とともに,チャンバー内の温度をモニタリングする.地中温度についても,直接測定または数値モデルから推定することで,GEM放出率に本質的に関与している温度が何かを明らかにする. このような実験的測定を行う候補地は草津白根山の山中にあり,当地には装置動作に必要な商用100V電源が存在しない.このため,12時間程度の装置稼働を可能とする大型バッテリーを準備し,さらに,電源とGEM測定装置と一体的に運搬できる荒れ地でも走行可能な台車を準備することで,任意の場所における連続観測を行う仕組みを構築する. このように可搬化された測定システムを山体各所へ運搬し,定点観測と平行して,多点精密測定を実施する.もし,温度依存性の詳細が定点観測で判明すれば,草津白根山の多点で得られたGEM放出量に温度補正を施すことができるであろう.地中ガスについても,引き続き採取・分析を行い,GEMの起源がマグマであることを裏付ける.
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