一般に,GEM(Gaseous Elemental Mercury,気体単体水銀)を含む揮発成分は,断層など透水性が相対的に高い領域を通って上昇すると考えられる.すなわち,GEM放出量の空間分布を知ることで,地下浅部の透水係数の大小を検討できるかも知れない.また,定点におけるGEM放出量は,地下の温度変化を反映して変化する可能性がある.しかし,GEMの大気への放出は気温や湿度,降水などの環境的要因に依存する.そこで,GEM放出に影響する主要因の温度に注目して,草津白根山において高精度水銀連続測定装置を用いた定点連続観測を行った. その結果,同一地点において,チャンバー内部温度 T の変動範囲 8.1-25.3 ℃ に対して,測定されたGEM放出率φは 4.01-10.74 ng/m2/s の範囲で変動していた.午前(気温が上昇傾向)と午後(気温が低下傾向)に得られたデータにおいて,それぞれ,lnφは T の逆数に対して直線的に変化していた.すなわち,GEM放出率はアレニウスの式によく従っている.ただし,午前・午後でアレニウスプロットにおける切片の値が明瞭に異なっていた.切片の違いの原因として,GEM放出率変化は気温そのものではなく,気温変動に時間 Δt 遅れて変化する地中温度に依存すると仮定すると,Δt=2100 s とした場合に,午前・午後のデータとも,共通の切片をもつ唯一の直線で最もよく説明できた.気温変動に対する地中温度応答を熱伝導方程式に基づいて計算すると,地表下 2 cm 付近の地温変化にGEM放水率が支配されていることが示唆された.この結果に基づきGEM放出率φに温度補正を加えることで,僅かなGEM放出率の変動をより明瞭に捉えられると考えられる.
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