研究課題/領域番号 |
18H01292
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
加 三千宣 愛媛大学, 沿岸環境科学研究センター, 准教授 (70448380)
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研究分担者 |
杉江 恒二 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境観測研究開発センター, 技術研究員 (00555261)
小野寺 丈尚太郎 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境観測研究開発センター, 主任研究員 (50467859)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | マイワシレジーム / 珪藻生産量 / 数百年規模変動 / 鉄供給指標 |
研究実績の概要 |
本研究は、培養実験と古海洋学的手法を駆使し以下の仮説を検証する。 『100年規模でマイワシレジームの最大個体数を低下させた原因は、オホーツク海からの鉄供給と北西太平洋の一次生産の低下にある』 本年度は、三陸沖の海底コア試料を用いて、北西太平洋の珪藻生産量の長期動態を明らかにした。また、珪藻種の休眠胞子比が鉄供給の指標となりうるか検証するために、それぞれの単離株を用いて、栄養塩環境を個別に制御した培養実験を行った。 既存の三陸沖コア試料の年代測定を行った結果、堆積物試料の年代は45,000年前から5,000年前に相当することがわかった。生物源オパールの分析の結果、12,000年前以降オパール濃度が増加し、三陸沖の珪藻生産量が完新世以降増加した可能性があることがわかった。しかし、当初の推定よりも堆積速度が非常に遅いコアであることが判明した。 一方、単離株を用いた鉄添加培養実験では、年度当初に単離した、親潮域に生息する10株の珪藻のうち1株しか休眠胞子を形成しなかったため、種間の鉄濃度の変化に対する増殖速度の違いを明らかにした。鉄濃度変化に伴う増殖速度の変化パターンは種により異なり、細胞の大きさや形態が鍵を握る要因であることを明らかにした。また、鉄濃度の変化と珪藻の生産量の変化により群集組成が変わることを示した。例えば、鉄濃度が高く、生産量が低い時はChaetoceros furcellatusに対するThalassiosira nordenskioeldiiの優占度が上昇する。このことは、堆積物中に見られる珪藻の出現比、例えばT. nordenskioeldii /C. furcellatus比が、海洋表層の鉄濃度の高低を推定する古海洋学的指標になる可能性を示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
既存の三陸沖コア試料が、当初の推定よりも堆積速度が非常に遅いことが判明したので、2019年度に数百年スケールの基礎生産変動を明らかにする必要がある。 単離株を用いた鉄添加培養実験では、残念ながら休眠胞子の鉄濃度に対する生産特性については検討できなかったが、親潮域の珪藻類の鉄濃度に対する感度の違いを明らかにすることができた。これにより、Thalassiosira/Chaetoceros比が海域の鉄濃度の高低を判断する古海洋学的指標になる可能性を示すことができ、当初の目的を達成できる見通しがたった。
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今後の研究の推進方策 |
数百年スケールの一次生産量変動の復元については、幸い新青丸航海の共同利用研究が採択となり、新たなコア試料を得ることができた。これにより、目的達成が期待される。新たなコア試料の年代測定をする必要があったため、繰越により年代測定の作業を行う予定である。また、一次生産指標として、生物源オパールよりむしろクロロフィルa等の色素が直接の一次生産指標として利用できることが我々の研究によって明らかになってきており、色素分析の共同研究者を分担者に参画いただくことで、高精度・高解像度の一次生産変動記録の復元を精力的に行う予定である。
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