4年目の最終年度となる令和三年度は,全体のとりまとめを行った.鹿島台地の太平洋岸沿いでは海成段丘最上部に礫質の海浜-外浜相が観察された一方で,陸側の北浦沿いでは砂質の海浜-外浜相が観察された.これらのユニットのpost-IR IRSL(pIRIR)225年代は,それぞれMIS5aとMIS5cを示し,一連に見える海成段丘面が,実は2回の小規模な海進により形成されたことを示している.これらのユニットの下位のpIRIR225からは,当初予想されたMIS7の海成相の他,薄いMIS5eの海成相や,MIS5dの陸成および汽水成相,さらにはMIS6c-dの海成相が存在することを示す結果が得られた.MIS6c-dは,MIS7とMIS5eの間の亜間氷期で,海面はこれらの時代よりも50m以上低かったと考えられている.その海成相の標高はしたがって,過去約18万年間の隆起速度の最小値を与えるが,海成段丘の年代をMIS 5cとした場合の隆起速度と同程度である.すなわち,研究開始時に仮説として示された隆起沈降傾向の逆転は10万年以降には起こっていないことを示す.一方で,前年度までの飯岡台地での結果と合わせると,関東平野下総層群の海成相が,10万年周期の間氷期だけでなく,その間の亜間氷期に形成されたものも含み,また間氷期内でのサブステージに対応する細かい海面の振動を記録しているという,重要な見解が得られた.また,やや内陸の新治で掘削したボーリングコアは最上部の河川相の下位に認められる内湾相のpIRIR225年代がMIS5eよりも古いことが明らかになった.この内湾層は,鹿島台地の海浜-外浜ユニットと合わせて,MIS5eの高海面期に関東平野全域で古東京湾が広がったことの根拠であったが,今回得られた年代はその概念に再考の余地があることを示唆している.新治台地のコアでは他にMIS9相当層の火山灰が見つかった.
|