研究課題/領域番号 |
18H01298
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
鹿山 雅裕 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (30634068)
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研究分担者 |
三宅 亮 京都大学, 理学研究科, 准教授 (10324609)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | カソードルミネッセンス / 鉱物 / 集束イオンビーム / ナノイメージング / 石英 / 衝撃変成作用 / 地質温度計 |
研究実績の概要 |
本研究の主旨である集束イオンビーム装置(FIB)にルミネッセンス画像撮影検出器(MiniCL)を組み込んだナノイメージングの技術確立と鉱物の画像分析について、二次元画像撮影による地球科学への応用のいくつかを実現した。一段式火薬銃で高圧を発生させた石英並びに地球上の天然の隕石クレーターに産する石英に対してナノイメージングによる高分解能カソードルミネッセンス(CL)画像撮影を試み、衝撃波の発生に伴い生じる特徴的なラメラ状の微小な衝撃変成組織を観察した。従来のCL画像撮影装置は走査型電子顕微鏡に搭載しており、それと比べてFIBに搭載している本装置はサブミクロンのラメラ状の石英ガラスと結晶質の石英の基質部分の差が明瞭にみられた。そのため衝撃変成組織の探索が非常に容易である。本研究で開発したナノイメージング装置により発見された複数の衝撃変成組織をユニバーサルステージやCLスペクトル測定と組み合わせて圧力を決定し、試料内での石英の圧力分布を解析した。これにより衝撃波が鉱物内を伝わる二次元的な分布解析が可視化され、これは隕石の衝突により生じる衝撃変成作用を解明する重要な鍵である。 さらに本研究で開発したナノイメージング装置については、地質温度計に応用することも試みた。地球上のテクトニックな変成作用により再結晶化したフェルサイト包有物に含まれる極微小の石英に対してCL画像撮影を試みたところ、石英の外形とは異なるそろばん状の累帯構造を可視化することに成功した。これは高温型石英の面影であり、再結晶化した直後の結晶化温度を反映していると解釈できる。このそろばん状の発光領域はTiに由来するCLの発光強度が強いことから高温での形成が示唆される。さらに、CL画像で石英に残存するドフィーネ双晶を発見し、変成作用は急速な冷却過程に伴う事象であったことを判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の核であるFIBにMiniCLを搭載したナノイメージング画像撮影装置の開発については完了することができた。従来の走査型電子顕微鏡にMiniCLを搭載した画像装置と比べて空間分解能、集光時間及び操作性などが格段に向上していることから、鉱物に内在する微小組織・構造を短時間かつ明瞭に撮影することに成功している。本年度はこのナノイメージングシステムを用いて一段式火薬銃及び隕石衝突により生じた地球上のクレーターに産する石英の衝撃変成組織を明瞭かつ短時間で可視化することに成功し、ユニバーサルステージやCLスペクトルと連携して試料内の石英の圧力分布を解析するに至った。その結果、一段式火薬銃による衝撃実験で回収された石英は非常に均一であることが明らかとなり、発生した衝撃圧力は衝突速度から求めた値とのずれは少ない。そのため、この衝突実験で回収された石英は地球上のクレーターの圧力を求める際の比較試料として用いることが非常に有効であることが判明した。その一例としてユカタン半島に位置するチクシュルーブ・クレーターのボーリングコアサンプルに含まれる石英に対してもナノイメージング撮影及び圧力推定を実施しており、深さごとに圧力の分布が大きく異なることを見出した。また、地質温度計への応用としてテクトニックな変成作用により再結晶化したナノインクルージョンに含まれる石英の累帯構造を撮影することに成功した。この石英はそろばん状の累帯構造を有し、そのCL発光は不純物であるTiに起因することから、高温での変成作用により再結晶化したことが示唆される。また、このそろばん状の累帯構造からドフィーネ双晶が存在することからも、再結晶過程は急冷を伴ったことが明らかである。これらの成果の一部は既に学会発表並びに国際誌に投稿・印刷されている
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今後の研究の推進方策 |
ナノイメージング装置の開発並びに二次元画像撮影による明瞭かつ短時間での画像撮影に関しては実現できた。今後の研究の推進としては、シリアルセクショニング技術を用いて鉱物のCL画像解析を断面ごとに取得し、三次元ナノイメージング画像撮影を実現することを検討している。 例えば、衝撃変成作用を受けた石英に関しては現時点で二次元画像撮影による衝撃変成組織の探索と組織の可視化・明瞭化には成功している。そのため、この成果をさらに進める意味でも衝撃変成組をシリアルセクショニングにより深さ数マイクロメートルごとに削りながらCL画像を撮影してラメラ状のガラス領域の方位を決定することを試みる。また、合わせてラメラ状のガラスの隙間に存在する結晶質の石英の基質部分に対してEBSDによる結晶方位解析やTEMによる構造解析を実施することで、従来ではユニバーサルステージを用いてしか実現できない衝撃変成組織の方位による衝撃圧力推定を三次元ナノイメージング技術で実現することを目標としている。また、他にもフィッショントラックが卓越したジルコンに対しても三次元ナノイメージング画像撮影を試み、核分裂により生じた特徴的なフィッショントラックをCLで可視化するとともに三次元的なフィッショントラックの生成を観察する。これにより、CLを用いた年代測定への応用を実現する。
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