研究課題
東北日本弧の長期変形過程を明らかにするために、低温領域の熱年代学を複合的に用いて山地の隆起-削剥史を定量的に復元することを目指している。基盤岩の花コウ岩類に含まれるアパタイトとジルコンなどを対象に(U-Th)/He年代測定とフィッション・トラック(FT)分析を行い、母岩の隆起-削剥に伴う冷却過程(熱史)の高精度解析を進めた。今年度は、東北脊梁山脈を横切る2つの測線(福島-新潟、岩手-秋田)のうち、岩手-秋田測線を中心に研究を進め、周辺地域も含めて隆起-削剥史を復元することができた。具体的な手順は次の通り:(1)現地フィールド調査と試料採取:測線にそって岩石試料を約20個採取した。白亜紀の花崗岩類を中心に、第四紀火山などの2次的熱源を避け、ほぼ等間隔になるように試料を採取した。(2)鉱物分離:岩石試料からアパタイトとジルコンを精選分離した。(3)年代分析:(U-Th)/He年代測定とFT分析。(4)熱史のインバージョン解析と熱年代プロファイルの作成:トラック長分布とFT年代を用いたインバージョンを行い、試料ごとに詳細な熱史を復元し比較した。また、得られた3種類の熱年代(アパタイトHe~70℃; アパタイトFT~100℃; ジルコンHe~180℃)を測線上にプロットし、広域的な熱年代プロファイルを作成した。この結果、前弧域にある北上・阿武隈山地、火山弧に位置する奥羽脊梁山脈、及び背弧側にある山地の間で、熱史に特徴的な違いが見出されることが確認された。北上・阿武隈山地では、およそ40Ma程度またはそれより古い冷却年代を示す一方、背弧側山地では、年代値は比較的若くおよそ5-3Ma程度を示す。奥羽脊梁山脈では最も若い年代値が見出され、(U-Th)/He法ではおよそ1Ma程度までの値を示す。これらの結果は、3つの地域において、隆起-削剥史が異なることを強く示唆する。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定通り、地質調査と試料採取が行えた。また、アパタイトの(U-Th)/He年代やFTデータなどの分析も順調に進み、当初予想していた以上の興味深い成果が得られたため。特に奥羽脊梁山地では、南測線に続いて北測線でもアパタイトを用いて非常に若い年代値が系統的に得られており、今後のさらに詳細な隆起-削剥史の復元とテクトニックモデルの構築が大変期待されることがわかった。
年度も大変順調に進んだので、本年度は、東北脊梁山脈を横切る2つの測線(福島-新潟、岩手-秋田)のうち、南側の福島-新潟測線およびその周辺地域に焦点を当て、脊梁山脈部分の稠密な分析を行う。具体的な研究の実施計画は以下の通りである。(a)地質調査と試料採取(担当 田上、堤;連携 吉田): 上記の測線およびその周辺地域において、白亜紀花崗岩類を中心に基盤岩を系統的に調査し、岩石試料を約20個採取する。(b)年代測定と熱史復元(担当 田上;連携 末岡、長谷部、Kohn、Zwingmann、中井、King): 岩石からアパタイトとジルコンなどの鉱物を精選分離し、(U-Th)/He年代測定とFT分析等を行う。試料採取地点ごとの岩石の温度-時間経路(熱史)を決定する。地下の温度構造を前提として、熱史から隆起-削剥過程を定量的に復元する。この測線については、すでに過去2年間においてアパタイトを用いた(U-Th)/He年代測定とFTインバージョンにより、熱史からみた隆起-削剥過程の概要がすでに明らかになっている。そこで、脊梁山脈の隆起-削剥過程を支配するテクトニックな枠組みを明らかにするために、脊梁山脈を横断するように数多くの基盤岩類を採取し、アパタイトを用いた(U-Th)/He年代測定とFTインバージョンにより、熱史プロファイルを詳細に復元する。これにより、従来から提唱されているテクトニックモデル(断層地塊隆起モデルvsドーミング隆起モデルなど)の検証を行う。また、二つの測線について、前弧域の隆起-削剥過程をより正確に復元し、第四紀後半に推定されている急速な隆起-削剥過程との比較を進める。これにより、プレート沈み込み帯における前弧域の非弾性変動を明らかにする方法論を開拓する。
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すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 2件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
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