研究課題
原生代に始まる超大陸の形成はSclavia/Superia (2.5Ga~),Nuna/Columbia (1.8Ga~),Rodinia (1.0Ga~),Pan-African supercontinent (6.0Ga~)と繰り返され,気圏・水圏の大規模循環や生命体活動にも影響した重要イベントである.最近,東南極リュツォ・ホルム岩体(全長約450km)の変花崗岩類から25~10億年が報告され始めた.本課題ではこれらの成因論と年代論を基にして本地域における原生代テクトニクスの解明を目指す.またその結果に基づきながら地球規模の超大陸変遷史の解明に向けた議論を行う.初年度ではリュツォ・ホルム岩体の変花崗岩類のうち,6地点の露岩域から採取した試料を解析した.そこでは各試料の岩相・産状,鉱物組み合わせ・組織,および全岩化学組成を互いに比較し,岩石学的特徴の類似する試料をグルーピングして「幾つかの集団」に区分した.ここでの「集団」とは,同様のテクトニクス背景で形成された花崗岩グループを意図している.その結果,変花崗岩類は,未成熟火山弧タイプ,大陸内タイプ,海嶺由来タイプ,そして海洋地殻起源タイプに区分され,既存報告にはない複雑な地質学的背景が浮き彫りとなった.このことをより明確にするため,各タイプの代表的試料を選択して希土類元素(REE)分析を加えた.これにより,各タイプの記載的な特徴の違いをより鮮明にできた.また,次年度以降に主な研究作業となるICP-MS装置・TIMS装置の両分析に必要な大型超純水製造システムを整備して稼動できる状態とし,さらに,ICP-MS装置とレーザー装置(UP-213)とを連結するHeガスラインの設計・新設を完了し,かつこれら各装置の制御PCのシステムアップを実施した.これにより分析データの精度向上と取得速度向上が見込まれる.
2: おおむね順調に進展している
初年度の取り組みにより,全長450kmにおよぶ東南極リュツォ・ホルム岩体には異なるマグマ活動場で形成したと考えられる種々の変花崗岩類が混在することが明らかとなった.このことは各岩石試料に対して,(1)野外における岩相・貫入形態・包有岩などの特徴,(2)顕微鏡下における鉱物組み合わせ・組織の特徴,(3)蛍光X線分析装置(XRF)による主・微量成分の特徴を一次データとして同時解析することで明確になる事も分かった.また,ICP-MSを用いたREE分析により,各変花崗岩類の差異がより鮮明になる事も判明した.このことを踏まえて,次年度以降では,これらの解析・整理を岩体全域に拡大することが非常に大事であるという方向性をつけることができた.一方,岩体内部よりタイプ(マグマ活動場)の異なる変花崗岩グループが数多く見出され,これは研究当初に予想していなかった.成果としては大きく,よりよい議論を期待できる形となったが,想定以上に解析時間を要した.そのことでREE分析・Sr-Nd 同位体比分析がやや遅れ気味に見える部分もある.この点は,初年度にICP-MS・TIMSの両分析に必要な大型超純水製造システムを整備・稼動できたことから,次年度以降に分析速度を向上させることで挽回可能と考えている.更に,年代論のためのジルコンU-Pb年代測定に向けた,島根大学のICP-MS装置とレーザー装置(UP-213)とを連結するHeガスライン新設を完了し,かつこれら装置の制御PCのシステムアップを実施できた.
研究二年次ではリュツォ・ホルム岩体で広域調査した全13露岩の変花崗岩類について上記の一次データを取得・整理する予定である(初年度は6露岩).内容は,岩相・産状,鉱物組み合わせ・組織,および全岩化学成分の特徴である.これらより岩体内に産する変花崗岩類を同一のテクトニクス背景で形成したと考えられる集団に区分する.さらに二年次では,初年度で先行研究した6露岩について成因解明の検討に入る.特に,①結晶過程,②マグマ混合と母岩の同化作用,③初性マグマの生成過程(特に起源物質と融解条件)を解析し,各花崗岩マグマ活動の背景にあったテクトニクスをより明確にする.また初年次より取り組んできた年代測定法の確立を目指す.三年次以降は変花崗岩類のマグマ成因論および年代論の解析を岩体全域に拡げて,リュツォ・ホルム岩体に記録された原生代火成活動史の解明を目指す.このことにより,Sclavia/Superia (2.5Ga~),Nuna/Columbia (1.8Ga~),Rodinia (1.0Ga~),Pan-African supercontinent (6.0Ga~)における超大陸形成期へのリュツォ・ホルム岩体の地質学的位置付けを解明し,これをもとに地球規模での超大陸変遷史解明に向けた議論を構築する.
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