研究課題
これまでの研究過程で,レーザー径25ミクロンでのモナザイトの局所Nd同位体比,レーザー径40ミクロンでのジルコンのHf同位体比,レーザー径65ミクロンでのアパタイトのSr同位体比分析を行うことが可能となった.また,分析手法の精査を繰り返すことで,その誤差は表面電離型質量分析計を用いたNd同位体比の誤差と同等まで精度を上げることに成功した.さらに,天然の花崗岩類から分離したモナズ石のNd同位体比初生値が,花崗岩の全岩Nd同位体比初生値とほぼ同様の値をしめすことが確認された.これらから,ジルコンのU-Pb年代とHf同位体比を目的としたジルコン分離の際に,ジルコンとともに濃集するモナズ石のNd同位体比を測定することで,非常に簡便にマルチ同位体比を用いた成因の議論が可能となることが検証できた.一方で,一般的な岩石に含まれるアパタイトについては,測定が困難であることが判明した.理由としては,天然の火成岩中のアパタイトが,斜長石などの他のSrを多く含む鉱物と共生するため,標準試料となるようなアパタイト巨晶と比較し,Sr含有量が著しく低いことによる.これについては,本年度に分析手法の改良を行い,全岩Sr含有量の高い火成岩中のアパタイトについては測定可能であったが,砕屑性岩に含まれる一般的なアパタイトの分析においては,まだ誤差が大きく今後の課題とした.以上,分析手法においては本年度までにジルコン・モナズ石・アパタイトの同位体比分析までの一連のルーチンを確立した.また,ジルコンのHf同位体比分析手法については,国際誌に報告するとともに,コロナ禍において新しい分析試料の採取が困難であった本年度は,既存試料の砕屑性岩についての年代測定や同位体分析を継続して行い,ベトナム中部コンツム地塊・モンゴル南西部アルタイ山地の研究成果について公表した(一部投稿中).
2: おおむね順調に進展している
当初予定通り,モナズ石のNd同位体比分析を含めたマルチ同位体比分析のルーチンを確立したため.
今後の研究方針としては,大きく2点である.1点目は分析手法の国際誌への公表である.既にジルコンのHf同位体比についてはGondwana Research誌へその測定手法について詳しく報告した.今後は,モナズ石のNd同位体比およびアパタイトのSr同位体比についての局所同位体比分析手法を国際誌に公表する.これについては,現在のところ特段の追加分析は必要ないと考えられるため,これまでの分析手法をまとめて,その結果を報告する予定である.2点目は,砕屑性岩の分析・解析の継続である.これは,ベトナムやモンゴル等の既存試料の砕屑性岩のジルコン・モナズ石についての分析・解析を継続するとともに,これまで地質学的に帰属が明確でない西南日本外帯の黒瀬川帯について,その帰属を対比できる可能性のある西南日本内帯の三郡蓮華帯と比較する.対比手法として,両地質体の野外調査を実施し(現在のところ福岡県・熊本県等の九州内に分布する地質体を予定),これまでの本研究で確立化されたジルコン・モナズ石の砕屑性年代測定とHf・Nd同位体比分析をもちいる.今回,アパタイトのSr同位体比分析は用いないこととする.最終的にこれらの分析・解析を通して,両地質帯の関連を詳細に検討しつつ,ベトナム・モンゴルの試料からの結果と併せて,砕屑性岩を用いた局所マルチ同位体比分析手法の有用性を検証する.
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すべて 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 4件、 査読あり 6件) 学会発表 (2件)
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