研究課題
地球のマントルが化学的に不均質である最大の要因は、地球内部を巡る水である。固体地球における水を含む揮発性成分の循環はマントルの状態や対流に大きな影響を与え、その理解は地球のダイナミクスと進化の解明に必要不可欠である。これまで研究代表者を含め、マントルを反映するマグマ(深海底玄武岩ガラスやメルト包有物)の揮発性成分に着目して、マントル内の水分布や振る舞いについて研究されてきたが、融解過程で本来不均質であった起源マントル組成は平均化され、全容解明するために必要なデータは十分に揃っていない。本研究では高感度、高空間分解能の二次イオン質量分析計(SIMS: IMS-1280HR)を用い、マントル鉱物に含まれる極微量の水、フッ素、塩素、硫黄の揮発性成分量分析法を開発し、世界に先駆けてマントル物質そのものから揮発性成分のデータを系統的に揃え、解析し地球内部水循環解明に向けた研究を推し進める。本研究の応用範囲は非常に広く、マントル鉱物の揮発性成分に関する研究は大きく前進する。令和元年度も引き続き多くの無水鉱物マントル鉱物である斜長石をはじめ、単斜輝石、斜方輝石の標準試料候補を揃え、均質性のチェックを行った。均質性の確認された試料については購入した精密研磨機を用いて、FTIR(フーリエ変換型赤外分光)分析の試料準備を行っていて、まずカンラン石の含水量測定に成功した。それに関する共同研究をはじめており、共同研究者がその予察的な結果を国際ワークショップにて公表している。それと並行し、マントルを反映するマグマの揮発性元素に関して、地球内部の揮発性元素の振る舞いに関して更なる制約を与えるための成果とこれらを発展させる分析技術に関する成果を、筆頭2本を含む4本の論文を公表した。
2: おおむね順調に進展している
令和元年度は標準試料の候補の選定をし、FTIRを用いた含水量測定のための準備を行った。特にマントルを構成する鉱物として最も多いカンラン石の含水量分析は応用範囲が広く、分析依頼の需要もあったため、その分析法の開発を最優先に行った。SIMSを用いた標準物質の均質性の確認、FTIRにて含水量を測定し、カンラン石に含まれる0.5ppmから数十ppmの水の分析を確立した。応用研究として、オマーン掘削プロジェクトで得られたマントルかんらん岩とはんれい岩に含まれるカンラン石の含水量測定を行い、その結果を国際ワークショップにて公表した。また含水量をフーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)により決定するため、平成30年度の本科研費で購入した精密研磨装置(池上精機製IS-POLISHER)を用いて、試料準備をしている。正確な含水量を求めるためには、鉱物を3軸から透過分析をすることが必要なので、鉱物の6面研磨の直方体片が必要だが、大変な手間と時間がかかるため、より効率的な準備方法を模索して、その方法はほぼ確立した。加水熱分解とイオンクロマトグラフを用いた鉱物のフッ素、塩素、硫黄濃度の分析準備は進んでいない。極微量濃度分析のため不純物の含まない標準物質の鉱物を準備するのが困難であり、環境ブランクの改善も大がかりな設備が必要と思われるため、事前に考えられる様々な問題点の解決が進んでおらず、研究計画よりもやや遅れている。
現在準備している鉱物の6面研磨の直方体片がある程度の試料数が準備できたらFTIR分析をして鉱物中の含水量を決める。各試料3片以上の分析を行い、誤差を含めたより良い精度の含水量を決定する。また、鉱物中のフッ素、塩素、硫黄濃度を決めるために鉱物粉末から加水熱分解法を用いてこれらの元素を抽出し、陰イオンクロマトグラフで分析する。鉱物を粉末化する前にクリアな鉱物試料の選定時、ごく僅かでも変質部分、メルト部分があると全岩分析であるがために、正しい鉱物中のフッ素、塩素、硫黄濃度が得られない。鉱物のハンドピックを注意深く正確に行い、洗浄も入念にして、最低3回の繰り返し分析が必要となることが予想される。粉末化の際の環境からのこれらの元素の混染もあり、その評価も含めて分析手法を確立する必要がある。決定した鉱物の水、フッ素、塩素、硫黄濃度と予めSIMSによって得られた信号強度比(OH/Si, F/Si, Cl/Si, S/Si)から各鉱物で検鏡線を引き、検量線の妥当性を評価する。以上の分析手法、結果をまとめ論文化する。また本研究で開発した分析法を様々な海洋島アルカリ玄武岩のマントル捕獲岩に含まれる鉱物に応用する。これらのマントル鉱物から系統的にデータを揃え、水に加えて挙動・特徴の異なる、若しくは類似する揮発性元素の濃度を組み合わせて多変量解析し、各試料の母岩との反応や脱ガスプロセスなど2次的な影響を取り除き、初生的な情報を読み解く。これらのマントル捕獲岩は岩石学的記載、地球化学データに基づき様々な深度由来で、重元素の同位体的特徴が多様なマントルを覆うように選定するので、揮発性元素と重元素を包括する新たな地球内部物質循環の描像を構築する。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (14件) (うち国際学会 8件)
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